口は災いの元
次の日。
「今日は転校生を紹介します」
ふーん、転校生かー。どんなやつなのかなー。
僕はそんなことを考えながら窓の外の景色を見ていた。
「みなさん、はじめまして! 凛と申します! 今日からよろしくお願いします!」
凛……凛ねー。ん? 凛?
僕が声の主の方に目をやるとうちの制服を着た幼女がいた。
「なっ!!」
「あっ、旦那様! 私、今日からこの学校の生徒になりました! よろしくお願いします!!」
『旦那様?』
ば、バカ! ここでは名前で呼べ!
というか、どうしてうちのクラスに……。
「先生! 私、旦那様のとなりがいいです!」
「え? いや、それはさすがに……」
「お願いします! 家の者が狙撃する前に頷いてください!」
「そ、狙撃!? え、えっと、じゃあ凛さんの席は山本くんのとなりにしましょう」
「ありがとうございます! 旦那様! 今、そちらに参ります!!」
な、なんで……なんでそうなるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
*
昼休み……。
「旦那様、私のこと覚えていますか?」
「うん、まあ」
「そうですか。では、お昼にしましょうか。私、お弁当作ってきたんですよー。ほら、見てください。旦那様のためにいつもより早起きして作ったんです」
じゅ、重箱……。
なんだろう……狐って、みんなこうなのか?
一度ロックオンしたらどこまでも追尾して仕留めるのか?
「なあ、一ついいか?」
「はい、何ですか?」
「ここ、高校だぞ?」
「それくらい知ってますよー! バカにしないでください!」
「いや、なんというか小学生にしか見えないからさ」
「容姿が気になるのでしたら、今すぐ旦那様のご希望通りの姿になりますよ?」
「いや、いい。そんなことされたら明日から学校に行けなくなるから」
「そうですか。では、お昼にしましょう。はい、旦那様。あーん♪」
「いや、いいよ。自分で食べられるから」
「そ、そんな! 私、頑張って作ったのに……」
「いや、そこまで落ち込まなくても……」
窓の外を見ると狐の仮面を被った人たちが薙刀の切っ先をこちらに向けていた。
僕ではなく、僕以外のクラスメイトたちに向けられている。
そうか。今、この学校の生徒全員、人質なのか。
ならば、こちらにも考えがある。
「凛、僕の膝の上に座っていいぞ」
「そ、そんなことできません! そんなことしたら私は!」
「いいから早く」
「は、はい、分かりました」
彼女がちょこんと僕の膝の上に座るとやつらは薙刀の切っ先を天に向けた。
「旦那様、このままだと旦那様に私が作ったお弁当の中身を食べさせることができません」
「座り方はお前に任せる」
「ありがとうございます」
彼女は僕と向かい合うように座った。
ち、近い……。呼気が当たりそうだ。
「旦那様、口を開けてください」
「どうしても食べさせたいんだな」
「はい」
「もし僕が拒んだらどうするつもりなんだ?」
「もしそんなことになったらこの学校はこの世から消滅します。狐というのは欲しいもののためなら何だって犠牲にします。それが例え、親族や友人であっても」
そう、なのか。
「はぁ……分かった。もう好きにしてくれ」
「はい、そうします」
彼女に悪意や殺意はない。
けど、常識というか倫理観というかもっとこう、幼い頃に身につけさせておくべきものが欠落している。
まあ、そういうものがない方が都合がいいのかもしれないな。家にとっては……。
「旦那様」
「なんだ?」
「食事が終わった後でいいので……その、ハグ……というものをしてほしいです」
「ここは一応学校だ。で、風紀を乱すと色々と困るんだよ」
「大丈夫です。その間、家の者たちが結界を展開してくれますから」
いや、見られなければ問題ないってことじゃないんだが。
「あー、その……家に帰るまで我慢できないのか?」
「……!! え、えっと、つまり今日から同棲してもいいということですか?」
あっ、しまった。失敗した。
「い、いや、今のはその……」
「やったー! 今日から旦那様と一緒に暮らせますー! ヒャッホー!」
な、なんてこった。はぁ……口は災いの元、だな。
 




