そのネコジャラシは危険です!
家に帰ると夏樹(僕の実の妹)が出迎えてくれた。
「おかえり! お兄ちゃん!」
「ああ、ただいま」
「ただいまー!」
「お兄ちゃん、今日はどこに行ってたの?」
あれ? 私、スローされた?
僕に抱っこされている家出中の白猫は少しだけショックを受けた。
まあ、同じ場所しかも目の前にいるのに認識されないのは辛いよな。
「猫の国だよ」
「猫の国? そんなの実在するの?」
「失礼ね! ちゃんとあるわよ!」
「ちゃんとあったよ。まあ、想像してたものじゃなかったけどね」
「へえ、そうなんだー。楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。女王様のおかげで入国できたし椿姉さんが案内してくれたからね」
女王様? 椿姉さん?
「お兄ちゃん、ちょっと二人きりで話をしようか」
「え? なんでだ? みんなにも聞かせてあげたいんだけど」
「いいから早く来て!」
「わ、分かった」
その後、僕は夏樹の部屋で猫の国に関すること全てを夏樹に話した。
その結果、まあギリギリセーフということになった。はぁ……やっと解放された。
僕がリビングに行くと座敷童子の童子が僕の目の前に現れた。
「おかえりなさい」
「え? あ、ああ、ただいま」
「猫の国に行ったそうですね?」
「え? あー、まあ」
「楽しかったですか?」
「え? うーん、まあそこそこ楽しかったよ」
「私のデートよりも、ですか?」
うわあ、なんかよく分からないけど機嫌悪いな。
あっ、そうだ。
「いや、そこまでは……。あー、そうそうおみやげにこんなのもらったんだよー」
「ほう、ネコジャラシですか」
「うん」
僕がそれを左右に動かすと彼女の頭からネコミミ、尾骨あたりからシッポが生えた。
「それは良かったです、ね!」
「わ、童子?」
「なんです、か!」
「いや、なんか猫みたいにネコジャラシに反応してるからどうしてかなーと思って」
「分かりま、せん! 体が勝手、に! 反応してしまうの、です!」
あー、なるほど。これが不思議なネコジャラシの効果か。
なるほど。これは面白いな。
「ダーリン、早速使ってるの?」
「ああ、そうだよ」
「あははは、本当に猫みたいになるんだねー。かわいい」
僕がリビングにやってきたことに気づいた家出中の白猫はリビングにやってくるなり、そんなことを言った。
「早く! なんとか! して! ください!!」
「えー、どうしよっかなー。もう少し見ていたいなー」
「いじわる! しないで! ください!!」
「はいはい、分かったよ。はい、おしまい」
僕がネコジャラシを振るのをやめると彼女に生えたネコミミとシッポは消えた。
「はぁ……や、やっと終わった……」
「童子、大丈夫か?」
「そのネコジャラシは危険です! 早く処分してください!」
「所有者が死なない限り枯れないらしいし、異性にしか効果ないみたいだからこれはお前に預けるよ」
「え? い、いいのですか? 私が雅人さんに使う可能性はゼロではないのですよ?」
「お前は真面目だから、よっぽどのことがない限り使わないだろ?」
「そ、それは……まあ、そうですが」
「ふわあ、今日は疲れたなー。それじゃあ童子、あとのことはよろしくなー」
「あっ、はい、分かりました」
僕が彼女にネコジャラシを渡した後、彼女がそれを大事そうに抱きしめていたことは僕と家出中の白猫以外知らない。
 




