不思議なネコジャラシ
猫の国観光はあっという間に終わりの時を迎えた。
国というより村のような感じの国。
平和で自然と共生していて風も心地よい良い国だ。
コンビニとかはないけど、みんな助け合って生きている。
「それじゃあ、そろそろ帰ります」
「え? あー、もう夕方ですね。では、出口まで案内します」
「お願いします」
家出中の白猫はまだ起きない。
今日は彼女ではなく椿さんとデートをしていた。誰が見てもそう答えるだろう。
まあ、別にいいんじゃないかな。デートっていうのはどこに行くかじゃなくて誰と行くかで色々と変わるものだから。
「それじゃあ、僕たちはこれで」
「あ、あの!」
「はい?」
椿さんが僕を呼び止める。
「ま、またいらしてくださいね」
「ええ、また機会があれば」
「え、えっと……私のこと覚えておいてほしい、です」
「椿さんは僕の理想の姉ですからねー、そう簡単に忘れないと思いますよー」
「そ、そうですか。良かった」
「あー、そうだ。記念に頭を撫でてもいいですか?」
「え? あー、はい」
「やったー! ありがとうございます」
僕は椿さんの目線までしゃがむと彼女の頭を優しく撫でた。
「椿さん」
「な、何ですか?」
「椿姉さんって呼んでもいいですか?」
「え!? あー、えーっと、ま、まあ、別に構いませんが」
「やったー! それじゃあ、またね。椿姉さん」
心臓がトクンと鳴る。
な、何でしょう。この感じ。何かの病気でしょうか?
「あっ、はい、また……」
「はい。あっ、僕のことは呼び捨てでいいですよ。それじゃあ、また」
「ちょ、ちょっと待ってください! これ、おみやげにどうぞ!」
「え? おみやげ、ですか?」
「は、はい。この国にしか生えていないネコジャラシです。所有者が死ぬまで枯れない不思議なネコジャラシです。異性に使うと猫のように甘えてくれます」
「へえ、そんなものがあるんですかー。ありがとうございます」
僕がそれを受け取ると彼女は僕の手の甲に肉球でスタンプを押した。
「えっと、今のは……」
「肉球証がないと人はこの国に入れません。えっと、普通それの有効期限は一日でつまり今のは……」
「いつでもこの国に入れる肉球証、ですね?」
「は、はい! そうです!」
「そうですかー。嬉しいですけど、勝手にそんなものを僕に渡して大丈夫なんですか?」
「肉球証は猫に危害を加えるような人には罰を与える仕組みになっています」
「なるほど。僕がその罰を受けていなかったから渡してもいいと思ったのですね」
「え? ええ、まあ、そうですね」
本当にそうなのでしょうか。本当は別の理由があるのではないでしょうか。
「そうですかー。いやあ、僕ばっかりいい思いをしちゃってますねー。次来た時は今日のお礼をさせてください」
「はい、楽しみにしています。では、またお会いましょう。え、えっと……ま、雅人!」
「うん、じゃあまたね。椿姉さん」
雅人はそう言うと白猫と共に帰っていきました。
あの白猫、ずっと寝たふりをしていました。
まったく、いったい何が目的なのやら。




