おいでおいで
しばらく歩くと、かなり大きい和風建築の家が見えてきた。
あそこに女王様が住んでいるのだろうか?
「なあ、本当に大丈夫なのか? いきなり首を切られるなんてオチはごめんだぞ」
「だ、大丈夫よ、多分……」
その多分が不安なんだよなー。
嘘でもいいから大丈夫と言ってくれ。
いや、そっちの方が余計に不安になりそうだな。
「ごめんくださーい! 女王様に会いに来ましたー!」
「もしかしてアポなしなのか?」
「ええ、そうよ。何か問題ある?」
相手は貴族だぞ?
アポなしで会ってくれるわけ……。
「はーい。あっ! お姉ちゃんだー! 久しぶりー!」
「うわあ、少し見ない間に大きくなったねー。前会った時はエクレアサイズだったのに」
「エクレア? 何それ、おいしいの?」
「おいしいわよー、まあ女王様はまだ完全に妖怪じゃないから食べられないけどねー」
「そっかー。早く大人になりたいなー」
家出中の白猫は例の家から出てきた黒猫とじゃれている。
仲良いんだな。
「あれ? その人だあれ?」
「お姉ちゃんの旦那様になる予定の人よー」
「へえ、そうなんだー。はじめまして、雲母です」
えーっと、キラキラネームなのかな?
いや『百々目鬼 羅々』よりかはマシか。
「はじめまして『山本 雅人』です」
「ふーん、雅人っていうんだー。へえー」
女王様は僕の周りをうろちょろしながら僕の体をじーっと見つめている。
「あ、あの、女王様。僕の体に興味があるのですか?」
「体じゃなくてオスというものに興味があるかなー。ねえ、雅人。オスとメスの違いってなあに?」
箱入り娘だからなのか、女王様はオスとメスの違いが分からないらしい。
「えっと、オスは鍵でメスは宝箱……ですかね?」
「へえ、そうなんだー」
女王様はそう言うと家の中に入ってから招き猫のようにおいでおいでをした。
「ほおら、こっちにおいでー」
「ちょ! 女王様! それを異性に使うのはマズイですよ!」
「え? そうなの?」
「そうですよ! ダーリン! だいじょ……って、あー、これはもう完全に術にかかってるわねー。ダーリン、大丈夫? 私のこと分かる?」
「僕は女王様のもの。女王様が嬉しいと僕も嬉しい。女王様の痛みは僕の痛み」
あーあ、これはしばらく安静にしていないとダメねー。
「はぁ……女王様、いたずらばかりしているとお父様に叱られますよ」
「大丈夫よ、お父様は私に甘いから」
「知ってます」
はぁ……やれやれ。
 




