恋人(仮)エターナル
狐事件のせいで座敷童子の童子とのデートが中途半端になってしまった。
ということで、今日はデートの続きをする。
「なあ、童子」
「何ですか?」
「水族館デートをもう一度したところまでは分かるが帰りに公園に寄る必要はあるのか?」
「普通に帰ったらデートじゃないです。デートというのは家に帰るまでがデートです。つまり私は時間稼ぎをしているわけです」
「時間稼ぎ、か」
僕たちは今、公園のベンチに座っている。
夕方なので子どもたちはみんな帰り始めている。
昔は僕もそうだった。
だが、今は違う。
大人に近いが大人ではない。
僕は今、そんな状態だ。
だから、休日にデートをしてその帰りに公園でのんびりしていてもいいのだ。
「雅人さん」
「んー? なんだー?」
「私はあなたのことを愛していますし、あなたとなら……その、こ、子どもを作ってもいいと思っています。えっと、その……ま、雅人さんは私のこと、好きですか? 恋人(仮)ではなく本当の恋人になる気はありますか?」
難しい問いだな。
いや、答えはもうずっと前から出ている。
でも、それを言ってしまったら童子を傷つけてしまう。
しかし、僕が彼女と本当の恋人になってしまったら夏樹(僕の実の妹)はきっとこの世界を破壊し尽くすだろう。
夏樹は化け物じゃない。この世にたった一人しかいない僕の大切な妹だ。
僕は夏樹のためならどんなことでも成し遂げられる自信がある。なくてもきっと成し遂げる。
それくらい夏樹は僕にとってとても大きな存在なのだ。
「童子」
「は、はいっ!」
「ごめん、僕には君を幸せにできる自信も富も名声もないんだ。だから……」
「そんなのいりません。私にはあなたが必要なんです。私にはあなたという存在そのものが必要なんです。身体中の細胞が、遺伝子が、私にこう囁くのです。この人のものになりたい。この人と一つになりたい。この人と一緒にいたいと……」
「でも、僕の中には鬼姫がいる。君の母親にひどいことをした鬼がいるんだ。そんなやつと一緒にいて君は本当に幸せになれるのか?」
「あいつはあいつ。あなたはあなたです。何度でも言います。私にはあなたが必要なのです!」
「気持ちは嬉しいよ。けど、君が僕を必要としているように僕には夏樹が必要なんだ。それは何が起こっても揺るがないんだよ。君と同じようにね」
「そうですか。私のことは愛せないのですね」
「それは難しいと思う。けど、君が悲しんでいたり一人で泣いていたら僕は必ず君の涙を拭いに行くよ」
ああ、もう、まったく……。
あなたは本当にズルい人ですね、きっぱりとフレばいいのに……。
「そう、ですか。分かりました。では、記念に私とキスしてください」
「水族館デートをした記念か?」
「いえ、違います。私とあなたが恋人(仮)エターナルになった記念です」
「そうか。うん、そうだな」
僕は彼女が満足するまでキスをした。
それが終わると彼女は血の涙を流し始めた。
僕はそれを指で拭うとそれが出なくなるまで飲み続けた。
本当は水で流した方がいい。
しかし、それだと彼女が今日のことを忘れてしまうおそれがある。
涙と一緒に記憶まで体外に出してしまうことはないだろうが、もしものことがあったら嫌なので僕はそうした。




