な・つ・き
今のお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。
鬼に……鬼姫に体を乗っ取られている。
「ねえねえ、いつもみたいにこいつの腕に抱きつかないの? な・つ・き」
私は少し離れたところから、そいつに殺意を向けた。
「お兄ちゃんの姿で、お兄ちゃんの声で、私の名前を呼ばないで! 耳障りだから!」
「あっ、そう。でも、学校に着くまではあたしがあんたのお兄ちゃん……いや、お姉ちゃんだよ?」
「お姉ちゃんなんていらない! 早くお兄ちゃんに体を返して!」
「やーだよ。あっかんべー!」
こ、こいつ! お兄ちゃんの体でよくもそんなことを!
夏樹……。この体の持ち主、雅人の実の妹。
いいなー、こんなかわいい妹がいて。私も欲しいなー。
まあ、鬼の願いなんて誰も叶えてくれないからなー。誰に祈ればいいのやら。
「ねえ、妹ちゃん。少し話をしてもいいかな?」
「やだ」
「まあまあ、そう言わずに。お姉さんとガールズトークしようよー」
「……してあげてもいい。けど、一つ条件がある」
「条件? あー、分かってるよ。それが終わったら妹ちゃんのお兄ちゃんに体を返せばいいんでしょ?」
「うん」
「うーん、どうしようかなー。お姉さん、鬼だから約束なんて守れないし守らないよー。けど、今日は気分がいいから特別にその願いを叶えてあげよう」
「本当に?」
「私の機嫌がいいうちは大丈夫だよー」
「そう。なら、早く始めて」
「オッケー。じゃあ、始めるよー」
そんな感じでそいつはゆっくり語り始めた。
 




