おさん狐
あっ、寝てた。
夏樹の寝顔を見ていたら、いつのまにか眠ってしまったようだ。
ベッドの脇で寝ていたから首が少し痛い。
夏樹はまだ寝ている。
今は朝の5時。まだ起こさなくてもいいな。
僕は自室に向かうと急いで課題を終わらせた。
まあ、今日までにやらなければならない課題ではなかったのだが。
僕は部屋の窓を開けると庭の花たちに水やりをしている人造妖怪のひーちゃんとふーちゃん、そしてカプセルのカプセルンの姿が見えた。
姉妹か……。うちは兄妹だけど、僕が女だったら姉妹になってたんだよなー。
僕がそんなことを考えていると、雲外鏡がやってきた。
「おはようございます。何か困っていることはありませんか?」
「え? いや、ないけど」
「本当ですか?」
「うん」
「そうですか。では、私はこれで」
「ああ」
何だったんだ? 今の。急に現れたと思ったら急に消えた。
いったい何がしたかったのやら。
異変に気づいたのはそれから数秒後のことだった。
「……ある……ない……」
歩いた時にあるはずのないものがそこにあることに気づき、あるはずのものがある方に手を伸ばすとそれがなかった。
それに気づいた瞬間、僕は座敷童子の童子を呼んだ。
呼子の力を使わずともあいつは僕のそばにいるから呼べばすぐに現れる。
「おーい、童子ー。いるかー」
小声でそう言うと童子は僕の目の前に現れた。
「はい、ここに。おや? 少し見ない間にずいぶん大きくなりましたね。特に胸のあたりが」
「ニコニコ笑いながら言うな。僕は今、すごく困ってるんだ。このままだと今日、学校行けないし行っても出席扱いにならないし知人にいちいちこのことを説明しないといけなくなる。だから、頼む。早く元に戻してくれ」
「はぁ……原因に心当たりはありますか?」
「え? あー、多分さっき僕の目の前に現れた雲外鏡の仕業だと思う」
「雲外鏡にそんな力はありません。あれにできるのは反射あるいは真実を鏡に映すくらいです。それに雅人さんほどの霊力を持っている方の性を変えるとなるとかなりの霊力を消耗しないと不可能です。まあ、私のような文字使いなら容易ですが」
容易なのか! 文字使い怖い! チートだ!
「まあ、それはともかくあなたが少しでも異性になりたいとか世界征服したいと思ったら、あなたの中にいる妖怪たちの力がその願いを叶えようとします。今回は『おさん狐』の仕業だと思います」
「えっと、それってたしか広島県の妖怪だったよな?」
「まあ、そうですね。ただ、妖怪の出身はよく出没する場所というわけではありません。日本にいるけれど、今この時日本のどこにいるのかは誰も知りません。どこかにはいるけれど、どこにいるのかは分からない。それが妖怪です」
まあ、そうだな。妖怪はだいたいそうだ。近くにいるようで遠い。そんな存在だ。
「で、どうすれば元に戻るんだ?」
「しばらくすれば元に戻りますよ。まあ、それがいつかは分かりませんが」
「うーん、まあ、登校するまでに戻ってなかったらお前の力を貸してほしいな」
「しばらくそのままでいればいいものを……」
は?
「今なんか言ったか?」
「いえ、何も。朝食の準備があるので私はこれで失礼します」
「ああ、分かった」
うーん、どうしようかなー。
少し早いけど、夏樹を起こしに行こうかな。




