それは、嫌だ
虹色のドロップを食べた。
僕がまだ取り込んでいない各都道府県を代表する妖怪たちの力が凝縮されているドロップ。
座敷童子の童子が作ったドロップ。
それを食べてから数時間ほど経過した頃、僕の体は少し変化した。
いろんな声が聞こえるようになったのだ。
正確にはいろんな妖怪たちの声だ。
日本各地を守っている妖怪たちの声。
別に耳障りというわけではないが、雑音をずっと聞いていると頭がおかしくなってしまうため僕はみんなに静かにするようお願いした。
一応、僕より長く生きているのだからお願いしないと言うことを聞いてくれない。
まあ、みんなのおかげで僕の体は完全に鬼化しなくなるのだから、たまには話を聞いてあげよう。
みんな暇を持て余しているのだから。
「……お兄、ちゃん」
「……やっと起きたか。気分はどうだ?」
「……欲しい」
「え?」
「お兄ちゃんが欲しい……ちょうだい……ちょうだい」
夏樹(僕の実の妹)は自分の部屋のベッドの上で両手を広げている。
彼女の黒い長髪が僕の体に巻きついていく。
二口女の髪……。
夏樹は自分の手足のようにそれを自由に動かすことができる。
そんな彼女は今、僕を欲している。
他の誰でもない、僕を……実の兄である僕を……。
「えっと、僕のどこが欲しいんだ?」
「お兄ちゃんが欲しい……」
「つまり、全部か?」
「お兄ちゃん、早くして。早く私のものになって。早く、早く」
なんだか様子がおかしい。
夏樹は僕に対して好意を抱いている。
僕に対してだけ特別な好意を抱いている。
それは前から知っていた。が、今の夏樹は僕に好意を抱いていない。
ただただ僕を求めている。
僕そのものを求めている。僕の力を血肉を魂を求めている。
それは今の夏樹に必要なものなのだろうか? いや、必要ない。僕という存在は必要なのかもしれない。しかし、僕そのものを欲して何になる?
「なあ、夏樹。お前はいったい何がしたいんだ?」
「お兄ちゃんがそばにいてくれないと私は誰かに襲われる。だから、お兄ちゃんを食べるの。お兄ちゃんは一生私の中で生き続けるの。ねえ、いいでしょう? アンコウみたいに一つになろうよ。お兄ちゃん」
全てのアンコウが……アンコウのオスがメスと一つになっているとは限らないが、どうやら夏樹は不安や恐怖のせいで頭がおかしくなっているようだ。
「夏樹、そんなことをすれば僕はお前を抱きしめることができなくなるぞ。それでもいいのか?」
「……それは、嫌だ」
「僕も嫌だよ。可愛い妹を内側からしか見られなくなるのは嫌だ。まあ、自由に出入りできるのならその願いを叶えてやらんこともないんだがな」
「それは無理。私、独占欲強いもん。お兄ちゃんを取り込んだら一生私の中に閉じ込めちゃう」
「だろうな」
「うん、きっとそうする。絶対そうする。だから、そうならないように気をつけてね」
「ああ」
彼女はそう言うと僕の唇にキスをしてから眠りについた。
 




