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虹色のドロップ

 夏樹なつき(僕の実の妹)を夏樹の部屋のベッドまで運んだ僕は夏樹の頭を優しく撫でた。

 あんな怖い思いをさせてしまった僕は兄失格だ。

 どうしてもっと早く気づけなかったんだ!

 誰よりも夏樹のことを知っているはずなのに!


雅人まさとさん、そろそろ時間ですよ」


 どこからともなく僕の真横に現れた座敷童子の童子わらこはそんなことを言った。


「時間? 今日なんかあったっけ?」


「何かというか、あなたの体に関する時間ですね」


「えっと、それってつまり……」


「早くしないと、あなたの体は完全に鬼化してしまいます。そうなったら、私はこの手であなたの息の根を止めます。これは脅しではありません。事実です」


 忘れてはいけないことを忘れかけていた。

 僕は僕のことに興味がない。

 けど、僕のことを必要としてくれているやつらがいる。

 だから、僕は悲劇ではなく喜劇になるように選択し続けなければならない。


「そう、だな。えっと、残り何個だっけ?」


「1つです」


「え?」


 何を言っているんだ? 僕は各都道府県にいる妖怪の力を取り込む必要があって、今はまだ半分も取り込んでいないぞ。残り1つなわけないだろう。


「私はあなたが取り込んでいない妖怪の力をドロップにして、それを融合させました。なので、あと1つです」


「ちょ、お前そんなことできるのか?」


「文字使いに不可能なことなどありません。さぁ、早くこれを」


 彼女の手の平には虹色のドロップが1つある。

 そんなに大きくはない。市販のドロップと大差ない。だが、疑問がないわけではない。

 本当にそれを食べるだけで各地を巡る必要がなくなるのか、そして僕の体が鬼化しなくなるのか。

 疑問は考えれば考えるほど、どんどん頭の中を埋め尽くしていった。


「まあ、いきなりそんなことを混乱しますよね。では、こうしましょう。雅人まさとさん、口を開けてください。私があなたの口の中に放り込みますから」


「いや、いいよ。それくらい自分でできる」


「しかし……」


「やらせてくれ。頼む」


「……分かり、ました」


「ありがとう、童子。じゃあ、いただきます」


 童子は少し躊躇っていたが、僕にそれを手渡した。

 僕はそれを口の中に入れると、舌と唾液と口の中の熱でそれを溶かした。

 いろんな味がした。普通においしかった。

 甘かった。優しい味がした。どこか懐かしい感じがした。


「……ごちそうさまでした」


「雅人さん、その……」


「何も言うな。今は何も聞きたくない。別に一人になりたいわけじゃない。ただ、今は夏樹の顔を見ていたいんだ。今必要なのはお前の言葉でもお前の温もりでもない。今僕に必要なのは夏樹だ。僕の妹なんだ。お前じゃない。だから……」


「分かりました。落ち着いたら呼んでください。では」


 彼女はそう言うと、その場からいなくなった。

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