風みたいなやつ
今日は雨が降っている。
天気予報では昼から晴れると言っていたが、本当だろうか?
僕の鬼の力を使えば、雨雲なんて無力なのだが、植物にとっては命の恵みのようなものであるため、それはしない。
まあ、とにかく早く学校に行こう。
遅刻なんてしたら、成績に響いてしまう。
「……すみません」
急げ、急げ。
「あの……すみません……」
「はい?」
僕が振り向くと、黄色い合羽を身に纏った子どもがいた。
「あの……ごめんなさい」
なぜ謝る?
「えっと、僕になんか用?」
「……あー、えーっと……このへんで風みたいな子を見ませんでしたか?」
風みたいな子?
それは誰のことを指しているんだ?
「いや、見てないな」
「そうですか。ありがとうございました」
その子はそう言うと、僕に背中を向けた。
その子の顔はよく見えなかったが、しょんぼりしているのは分かった。
「……なあ」
「はい、何ですか?」
僕はその子の額に手を当てた。
「な、何ですか?」
「静かに。集中が途切れる」
僕はその子の脳内にある風のような子の外見等の情報を得た。
「なるほどな……。たしかに風みたいなやつだな」
「え?」
僕はその子から離れると、自分の髪の毛を何本か抜いた。
「出でよ、僕の分身たち」
僕がそれらに息を吹きかけると、それらは僕そっくりの存在になった。
「え? え? な、何これ……」
「そいつの捜索は、こいつらに任せろ。使命を果たすまでは消滅しないようにしてあるから」
その子は状況を把握しきれていなかったが「は、はい」と返事をした。
「じゃあな、無事に見つかるといいな」
その子は別れ際に何か言おうとしていたが、僕はそれを聞く前に走り出していた。