いってらっしゃい
今日は雨が降っている。
月曜日なのに機嫌悪いな。お天道様。
はぁ……あんまり好きじゃないんだよな。
雨……。
洗濯物は湿気で乾かないし、窓に結露ができるし、蛙やカタツムリを踏みそうになるし……。
僕がそんなことを考えながら、玄関で靴紐を結び直していると、何者かに視界を塞がれた。
「だーれだ?」
鬼の力を使うまでもない。
この手の感触はどう考えても妹のものだ。
「うーんと……夏樹かな?」
「ピンポーン♪」
妹は僕に抱きつくと、頬をスリスリと擦りつけてきた。
「どうしたんだ? いつもなら、リビングにいるはずだろ?」
「別に深い意味はないよ……。けどね、今日は雨だから、少し気分がどんよりしてるんだよ」
気分がどんより……か。
まあ、そうだよな。
空がどんよりしてると、こっちまでどんよりしてくるよな。
「朝から仲がいいですね」
「なんだ、童子か。相変わらず、音もなく現れるんだな」
座敷童子は僕のとなりに座っている。
彼女は爪の間にある汚れを取りながら、こんなことを言った。
「私も雨の日は嫌いです。いやなことを思い出しますから」
「いやなこと?」
彼女は深いため息を吐くと、スッと立ち上がった。
「その話はまた今度にしましょう。というか、早く学校に行かないと遅刻してしまいますよ?」
「何? あー、本当だ。もう八時だな。じゃあ、いってきます」
僕が二人にそう言うと、二人は同時にこう言った。
『いってらっしゃい』