一緒に帰りましょう
ここは……どこだ?
白い部屋だ。
窓はない。扉は……一応あるけど、なんか床から生えてる十字架についてる枷で四肢を拘束されてるから、そこまで行けない。
僕はどうしてこんなところにいるんだろう。
僕がそんなことを考えていると自動ドアが開いた。
部屋の中に入ってきたのは座敷童子の童子だった。
彼女は僕の目の前まで来ると僕にこう言った。
「……雅人さん、どうして私を助けたんですか?」
「どうしてって……そりゃあ、大切な家族の一員だからだよ」
「家族……ですか。その結果、あなたの体はほとんど鬼化してしまいました。その枷がないとあなたは人の姿を保つことができません。私を見捨てていれば、こんなことにはならなかった。私のせいであなたは……!」
「童子」
僕は今にも泣きそうだった彼女の名前を呼ぶ。
「なん、ですか?」
「僕は別に後悔なんてしてないよ」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。結果的に僕の体はほぼ鬼化しちゃったけど、お前を救うことができて本当に良かったと思ってる。だからさ、そんな泣きそう顔するなよ」
「私は……泣いてなんか……!」
今すぐ彼女を抱きしめてやりたい。
頭を撫でてやりたい。
涙を指で拭ってやりたい。
けど、今はダメだ。というか、無理だ。
鬼の力が暴走してしまったら、この部屋は……いやこの星そのものが消滅してしまう。
なんとなくだけど、そんな気がする。
「童子、しばらくの間みんなのことよろしく頼むぞ」
「え?」
「え? じゃない。僕がいなくなってもお前がいれば家のことはなんとかなるだろ? どうしても苦しい時は夏樹とかに力を貸してもらえ」
「で、ですが私は!」
「お前はさ、僕なんかよりいろんなことができる。だから、僕が帰ってくるまで……」
「嫌です……」
え?
「私もここに残ります。あなたを一人にするわけにはいきません」
「僕は別に一人でも大丈夫だよ」
「あなたが良くても私や夏樹さんたちは我慢できません!」
「まいったな……。えっと、じゃあ、どうすればいいんだ?」
「今すぐここから出ましょう。私の文字の力なら、それができます」
文字の力……か。
「えっと、僕の身代わりがいないと……」
「用意します」
「ここから家までの距離は……」
「この施設に展開している結界のせいでそれは分かりませんがここから家まで帰ることはできます」
「世間の目が……」
「たとえ嘘でもその人が真実だと思った瞬間、それは真実になります。ですから一緒に帰りましょう」
「帰って……いいのか?」
「はい」
「そっか……。じゃあ、帰ろうか」
「はい……」
その日、文字の力によって僕は人間っぽい妖怪になった。




