くびれ鬼
屋上にいた妖怪は……。
「お前、くびれ鬼だな! 童子に何をした!!」
「俺はただ、そいつが死にたいと言ったから死の世界に招待しただけだ。俺は別に悪くない。死の誘惑に負けたそいつが悪い」
「なら、聞かなかったことにしろ! そうすれば見逃してやる!」
「そういうわけにはいかない。死にたいという願いを叶えるのが俺の仕事、使命、義務なのだから」
ダメだ。話が通じる相手じゃない。
どうすれば……どうすれば童子を助けられる?
考えろ……。いや、そんな時間はない。
とにかく童子がいるところまで辿着ければいい!
僕は……いや、俺は鬼の力を使った。
半ば無理やり使ってしまったせいで一瞬意識が飛びそうになったが、なんとか耐えることができた。
「童子! 早まるな!!」
「……雅人……さん……」
「童子! 手を伸ばせ!! 死ぬな! 生きろ!!」
あと少し……あともう少しで屋上から飛び降りようとしている童子の手を掴むことができる。
あと、もう、少し……。
「残念だったな。そいつはもう手遅れだ」
くびれ鬼が指をパチンと鳴らすと童子は何者かに背中を押された。
そうとしか言いようがない落ち方だった。
「うるさい! 俺は諦めない!!」
「ふん、バカなやつだ」
それから後のことはよく覚えていない。
童子を空中でキャッチして、なんとか着地したところまではなんとなく覚えているが、それからどうなったのかは覚えていない。
気がついた時、僕は白い部屋の床から伸びている十字架に四肢を拘束されていた。
 




