うちでなら
夕方。
「……あ……あれ? 私……今まで何を……」
「あっ、起きたか」
「お、おはようございます、雅人さん。ん? なんだかいつもより遠くまで見えますね」
「それはお前が僕の背中に乗ってるからだ」
「え? あっ、本当だ……って、私にそこまでする必要はありません! 今すぐ下ろしてください!」
童子が手足をバタつかせると彼はその場で停止した。
「待て待て。あんまり暴れるとケガするぞ」
「いいから下ろしてください!」
「……はいはい」
彼女の熱が背中から離れる。
程よい熱が心地良かったんだけどな。
まあ、いいや。
「たまには見た目通りのことしてもいいんじゃないか?」
「心も子どもになれと言いたいのですか?」
「いや、別にそういうことじゃなくてな。その、少しは心を開いてくれてもいいのになーって話だ」
「そ、それは……無理です。外でそんなことできません」
「うちでなら心を開いてくれるのか?」
「そ、そんなの分かりません! ほら、とっとと帰りますよ!」
「はいはい……」
やれやれ、夕日のせいで顔が真っ赤になってるじゃないか。
まあ、多分それだけじゃないだろうな。
僕は微笑みを浮かべながら早足で歩いていく彼女の背中を追っていた。




