怖い
ふむ……。
なーんか童子の様子がおかしいなー。
包丁使ってる時に指を切り落としたり、電子レンジに卵入れたり、そのへんで拾ってきた猫を鍋にしようとしたり。
どうしたんだろう。いつもなら、そんなミスしないのに。
僕はそんなことを考えながら、ソファで本を読んでいる童子の元へ向かった。
「となりいいか?」
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
僕がとなりに座ると彼女は本を読むのをやめた。
その直後、僕の膝を枕にした。
「おい……」
「なんですか?」
「息をするように僕の膝を枕の代わりにするな」
「別にいいじゃないですか。私はサメじゃないんですよ? 少しくらいゆっくりさせてください」
うーん、まあ、妖怪でも休みたい時は休むからな。
でも、他人に迷惑をかけてもいいってわけじゃない。
「まあ、ゆっくりするのは別に構わない。けど、ずーっとここにいられると困る」
「なぜですか? 見た目が幼女だからですか? あー、そうですか。どうせ私は一生幼女ですよー。はぁ、どうして私は座敷童子なんでしょうねー」
あれ? もしかして怒らせちゃった?
「いや、別にそんなつもりで言ったんじゃ……」
「じゃあ、何なんですか?」
「え、えーっと、ずっとこのままだとトイレに行きたくなった時、困るからだ」
「あー、たしかにそれは困りますね。ですが、あなたは私が眠りにつくまでの間、私の枕になる運命なのです!」
誰がそんなことを決めたんだ?
まあ、こいつだろうな……。
僕は心の中でため息を吐くと、彼女の頭を撫で始めた。
「ねーむれー、ねーむれー。よーいー子ーはー、ねーむれー」
「そ、そんなもので私が眠ると思って……」
彼女は操り人形の糸が切れた時のように急に動かなくなった。
「これでよし……。ん?」
彼女の目尻に涙が溜まっている。
どうしてと思うより先に彼女が寝言を言う。
「……怖い……私は……自分の力が……怖い」
「怖い?」
自分の力……それはほぼ確実に文字の力のことだろう。
文字に秘められた力を現実で解放し、その力で攻撃したり防御したりする。
それが文字の力……。
文字使いは数人いるらしいが、僕はまだ会ったことがない。
こいつは面識があるのだろうか?
「雅人……さん……たす、けて」
僕は彼女の手をギュッと握る。
「僕はここにいるぞ。だから、自分を恐れるな。その力は誰かを守るためにあるんだから」
彼女が僕の手を握り返す。
その直後、彼女は微笑みを浮かべた。
少しは役に立てたかな。




