それから
それから。
「私が生み出した夢世界もどきのおかげで雅人さんが私に求めているものが分かりましたが、あれはさすがにないです」
「え? いや、あれはお前が僕に見せた幻だろ?」
座敷童子の童子はブンブンと首を横に振る。
「無意識と意識は表裏一体。雅人さんは心のどこかで今より幼い私と戯れたいと思っているのです。でなければ、あんな赤ちゃん言葉を話す私が出てきたりしません」
「いや、あれは少し前に実際にあったことで」
「その時の私があまりにも可愛かったため、いつかそういうプレイをしてみたくなった。違いますか?」
なんでそうなるんだよ。
「いや、違うぞ。うん、本当マジで」
「そうですか。では、この件はこれで終わります。あっ、そうそう……あ、甘えたくなったらいつでも言ってくださいね。赤ちゃん言葉はさすがに恥ずかしいですが、あなたを癒すことはできますから」
「え? あ、ああ、分かった」
なぜ頬を赤く染めているんだ?
風邪でもひいたのか?
「で、では、そろそろ私の部屋から出ましょう」
「あ、ああ、そうだな」
彼女が部屋から出ようとすると灰色の空間はそれを阻止した。
「……これは困ったことになりましたねー」
「え? 何がだ?」
なーんか嫌な予感がするなー。
気のせいかなー?
いや、多分違うな……。
「この部屋から出るには、あれやこれやをしないと出られないようです」
「へえー、そうなのかー。それは困ったなー」
「雅人さん、とりあえず横になってください。あとは私が全部やってあげますから」
うん、こいつ最初からそのつもりだったな。
どうしてこう強引に襲おうとするんだろう。
「断る。理由はお前の手つきがいやらしいからだ」
「そ、そんなことありませんよー。ほ、ほらー、怖くないですよー。で、ですから、お、おとなしく私に食べられてくださーい」
「うん、普通に無理。というか、この部屋壊していいか? いいよな?」
彼女は僕の足にしがみつく。
「それは勘弁してください。この部屋を失ったら、私の力は半減してしまいます」
「え? そうなのか? じゃあ、壊すか」
「わ、私の話を聞いていましたか!? それをされると困るのです!」
じゃあ、最初からおかしなことしようとするなよ。
「じゃあ、どうすればこの部屋から出られるんだ?」
「そ、そうですね……。ひ、膝枕をしてくれたら出られるかもしれないですね」
「え? そんなので出られるのか? なら、やろう。今すぐやろう。すぐやろう。はい、どうぞ」
「え、ええ……そ、そんないきなり……。ま、まだ心の準備が」
どうして恥ずかしがってるんだ?
こいつの羞恥心の基準がよく分からないな。
「まあまあ、そう言わずに……」
「う、うう……わ、分かりました」
彼女は僕の膝に頭を乗せると体を猫のように丸めた。僕が彼女の頭を撫でてやると彼女はすぐにウトウトし始めた。
彼女が寝息を立て始めた頃、部屋から追い出された。うーん、ここはどうやら二階の廊下みたいだな。
童子は……しばらく起きそうにないな。
仕方ない、僕の部屋まで運ぼう。
僕は童子が起きるまで彼女の寝顔をじーっと見つめていた。




