俺っち
夢の世界にやってきた僕と童子。
原因は枕返し。
人の夢を壊すのが三度の飯より好きな妖怪だ。
さて、僕がそのへんにあった石を蹴ったことで夢の世界が壊れ始めたわけだが……。
「こんにゃろー! 誰だ! 俺っちのパラダイスを破壊しているやつはー!」
ほんの少しだけ金剛力士像に似ている小柄なそれは上からやってきた。
「あー、それは完全に僕のせいだ。すまない。けど、こうなったのはお前のせいでもあるんだぞ? どうして僕たちをこんなところに……」
「知るか! お前らなんかお呼びじゃない! とっとと出ていけ! こっちは仕事中なんだよ!」
仕事中?
「それはすまなかったな。じゃあ、僕たちはこれで」
「依頼主は狐ですか? それとも狸ですか?」
それは暗号か何かか?
座敷童子の童子が急にそんなことを言ったため僕はその場で立ち止まった。
「い、言えるもんか! いいからさっさと出ていけ!」
「出ていけ? 何を言っているのですか? ここは私が作った空間ですよ? 部外者はあなたの方です」
ん? それってまさか……。
「な、なにい!? そんなわけねえ! 俺っちは夢の中でなら誰にも負けな……」
「遅い! 束縛!!」
「なっ! くっ、クソ! な、なんだこれは! 夢の中でこんなことできるのは俺っちくらいなのに! お前、ただの座敷童子じゃないな! いったい何者だ!」
夢の世界では文字の力は使えない。
けど、彼女自身が生み出した夢の世界そっくりの空間でなら使用可能。
「通りすがりの文字使いですよ。さぁ、あなたの依頼主が誰なのか言いなさい!! さもないと、あなたを縛っている縄をもっときつくして内臓や骨を砕きますよ?」
「ひいいいい! わ、分かった! 言うよ! 言うから痛いのは勘弁してくれ!」
「よろしい。では、言いなさい。ほら、早く!」
「は、はいいいいいいいい!!」
こいつ、やる時はとことんやるよな。
まあ、別にいいんだけど。
「なるほど。あなたの依頼主は人間ですか。狙いは私の文字の力と雅人さんの鬼の力……欲張りですね。片方だけにしておけばいいものを」
「な、なあ、童子。お前はさっきから何を言っているんだ?」
「別に難しい話をしているわけではありません。この前の夏樹さんの一件で今まで私たちのことを知らなかった悪人たちが私たちの力を悪用しようと動き始めただけです」
え? それって結構まずいんじゃないのか?
「サラッと恐ろしいこと言うなよ。で? どうするんだ? また十干たちの力を借りるのか?」
「いえ、今回はそこまでする必要はありません。枕返しに命令した人間とグルになっている存在を一掃できるように枕返しの体内に『呪毒』を流し込みました。私の合図一つでその毒はやつらを襲い始めます。安心してください。骨すら残りませんから」
「それ、枕返しも死ぬんじゃ……」
「ええ!? 俺っち死ぬの!?」
「あなたは死にませんよ。ただ、これからは私の元で働いてもらいます。いいですね?」
「は、はいいいい!!」
その後、童子が指をパチンと鳴らした。
それで今回の事件は解決したようだが、自分の手を汚すことなく静かに人を殺す童子の頭の構造はどうなっているのだろうと思った。




