どっちもおいしいじゃん
で。
「夜の学校って、なんか不気味だよねー。お化けとか出そう」
「お前、自分が妖怪だってこと忘れてないか? まあ、僕も半分そうだけど」
夜、学校の敷地内で天使と悪魔が言い争いをしている。
その噂が本当かどうかを確かめるために休日を利用して学校にやってきたわけだが。
「なんだよ、どこにもいないじゃないか」
「おっかしいなー。今日はもう寝たのかなー?」
もしそうだったら即帰る。
僕が半ば諦めていると、どこからか声が聞こえてきた。
「だーかーらー! 絶対〇〇の方がいいですって!」
「いーや違うね! 絶対〇〇の方がいいに決まってる!」
「ねえねえねえねえ! これってほぼ間違いなく噂のやつだよね! ねえ!」
僕の幼馴染である『百々目鬼 羅々』はその場でぴょんぴょん跳ねる。
「お前は小学生か。はしゃぎすぎだ。とりあえず声がする方に向かうぞ」
「わ、分かった。あっ、ちょっと待ってよ! 雅人ー! 置いてかないでー!」
あー、もうー、仕方ないなー。
僕はUターンすると彼女の手を握ってから再び走り始めた。
ま、雅人の手、結構ゴツゴツしてる。
えっと、最後に手を繋いだのはいつだっけ?
まあ、いいや。今はこの幸せな時間を大切にしよう。
*
屋上に着くと天使と悪魔がギャーギャーと言い争いをしていた。
「この分からずや! 何度言えば分かるんですか!」
「そのセリフ、そっくりお前に返してやるよ!」
「なんですってー!」
「なんだよー!」
うわあ、やってるやってる。
あんまり関わりたくないなー。
まあ、とりあえず話を聞いてみよう。
「あのー、すみません。こんな夜中に何をしているんですか?」
「邪魔をしないでください! 今、とても重要な話をしているんです!」
「そうだ! そうだ! 邪魔するな!」
「だとよ。どうする?」
「うーん、そうだねー。二人はどうして言い争ってるの? もしかして原因はそこにあるお菓子?」
二人は羅々にそのお菓子について語り始める。
「そうなんですよ! こっちの方が絶対おいしいのにこの悪魔にはそれが分からないのです!」
「はぁ!? それはこっちのセリフだ! こっちの方が絶対おいしいに決まってる!」
「なんですって!」
「なんだよ! やるのか!」
ふりだしに戻ったな。
まあ、なんとなくこうなると思ってたけど。
「あむっ……うんうん。はむっ……ふむふむ。なあんだ、どっちもおいしいじゃん」
『はぁ!?』
「そんなことあるわけがありません!」
「そうだ! そうだ! ちゃんと食べ比べたのか?」
「うん、ちゃんとしたよ。そう言う二人はしたの?」
二人は急に無言になる。
あっ、これはどっちも食べ比べしてないやつだな。
「そ、それは……」
「いや、別に食べ比べるまでもないというか、なんというか」
「そんなことないよー。どっちもおいしいよー。ほら、二人とも食べてみてー」
二人は顔を見合わせると恐る恐る食べたことがない方のお菓子を口に入れた。
「ま、まあまあですね」
「まあ、まずくはないな」
「でしょー? というか、どっちも同じ会社で発売されてるから、どっちを買って食べても会社の利益になっちゃうんだよー」
『っ!?』
なぜそこで衝撃の事実! みたいな顔をするんだよ。ちゃんとパッケージ見れば分かるだろ。
「私たちはものすごく無駄な争いをしていたのですね」
「そうだな。これからはどっちも買って食べるよ」
二人はそう言うと天国と地獄、それぞれの居場所に戻っていった。
「これにて一件落着! はーはっはっはっは!」
「おい、用はもう済んだだろ。とっとと帰るぞ」
「はいはい」
「はい、は一回!」
「はーい」
そんな感じで事件はなんとなくうまい具合に解決した。
ちなみにお菓子は僕と彼女で公園のベンチで分け合って食べた。
どっちもなかなかおいしかった。




