こんな噂
朝起きると目の前に夏樹(雅人の実の妹)がいた。
「お、おはよう。夏樹」
「おはよう、お兄ちゃん。昨日はお楽しみだったんだってね」
昨日……というか、深夜のことかな?
夏樹の部屋は僕の部屋のとなりにあるから童子(妹)の件のことを知っていてもおかしくない。
けど、それだと深夜に起きていたということになるな。
「いや、あれはちが……」
「な・に・が・ち・が・う・の?」
「え、えーっとだな。その……なんというか、あれは無理やり迫られてだな」
「なるほど。勢いでヤっちゃったと」
「いや、別にヤってはないよ。まあ、キスはされたけど」
「へ、へえー、キスしたんだー。私以外のメスとー」
メスって……。
もっと違う言い方はできないのか?
「それは事実だから否定しないけど、お前が想像しているようなことは何もなかったんだよ。信じてくれよ、夏樹」
「じゃあ、また上書きさせて。そしたら信じてあげる」
ま、またキスを要求するとは。
まあ、予想はしてたけど。
「何? 私とキスしたくないの? 他のメスの味を覚えちゃったから私じゃもう満足できないの? ひどいよ、お兄ちゃん。私を置いていくなんて、あんまりだよ!」
「ぼ、僕は別にそこまでひどいやつじゃないよ。ただ」
「ただ……?」
僕は夏樹から目を逸らす。
「そ、その……寝起きだから……こ、口臭が」
「え? そんなこと気にしてたの? 私はそんなの気にしないよ。ほら、口開けて。あっ、あと目を閉じて」
え? 今からするのか?
「ま、待て! まだ心の準備が!」
「大丈夫だよ。今日は優しくするから……ね?」
「お、おう」
ああ、僕の悪い癖だ。
推しに弱いというか、流されやすいというか。
「じゃあ、始めるよ。はむっ……」
「……っ!?」
その後、僕は妹に何度も何度も唇を奪われた。
優しくするって言ってたのに……。
嘘つき……。
「ってなことがあってさ……。なあ、聞いてるか?」
「あー、聞いてる聞いてる……」
朝から妹とイチャイチャしてたってことはよーく分かったよ。
幼馴染であるこの私がいる場所で他の女の話をするなんて……雅人は本当に……。
「なあ、羅々。聞いてるか?」
「聞いてるよー。というか、それ学校の休み時間にする話じゃないよね?」
「え? いや、でも事実だし……」
「うん、それは分かるよ。けど、私がそれを聞いてなんか得することある? ないよね?」
「な、なんだよー。いつもは悩みとかないー? とか言ってくるクセに」
「それはそれ。これはこれだよ。ということで、この話はもうおしまい。それよりさ、最近こんな噂があるんだけど知ってる?」
その後、彼女は休み時間が終わるまでその噂についてしゃべっていた。




