やっぱり好き
僕は童子(妹)を蹴飛ばそうとしたが、彼女がニコッと笑ったため中断した。
「あははははは! もうー、私が雅人にそんな酷いことするわけないじゃん! 雅人って本当に騙されやすいよねー」
「え? う、嘘なのか? よ、良かったー。今回はマジで焦ったぞ?」
「ごめんごめん。久しぶりに雅人の顔を見たら、ついいじめたくなっちゃって」
「なんだよそれー。ひっどいなー、もうー」
こうして貞操の危機を脱したわけだが、この時の僕は彼女に別の目的があることに気づいていなかった。
「……ねえ、雅人。お姉ちゃんのこと好き?」
「え? うーん、まあ、好きかな。あいつはもう僕の家族みたいなものだし」
「ふーん、そうなんだ……。じゃあ、私は?」
え?
「え、えーっと……」
「正直に言って。怒らないから」
それ、何言っても怒るやつじゃないか。
まいったな……。
「え、えっと、正直に言うと……よく、分からない。もちろん、家族として好きってのはあるけど、それ以上でも以下でもないというか、なんというか」
「そっか。じゃあ、少し進展させようか。私たちの関係を」
え? 進展?
関係を進展させるって具体的にどういう……。
僕がそんなことを考えていると彼女は僕の両頬に手を添えた。
その後、彼女は目を閉じながら僕の顔のある一点めがけて近づいてきた。
「ちょ、ちょっと待て!」
僕は思わず彼女の両肩を掴んで僕から遠ざけた。
「何? もしかして怖いの? 夏樹ちゃんとお姉ちゃんにもうしてもらってるのに」
「きゅ、急にそんなことされたら反応に困る! どうしたんだよ! お前なんか変だぞ!」
「変? 別に私は変じゃないよ。ただ、自分に正直になっただけだよ。私が雅人とお姉ちゃんの力でこの世に存在できるようにあった瞬間から私はずっと雅人のこと好きだよ」
そ、そんな……。
今までそんなこと一言も。
いや、違う。
こいつは僕に好意を抱いていた。
けど、僕は見て見ぬフリをしていた。
その好意が家族としてのものではないことを認めたくなかったから。
「だから、僕にキスしようとしたのか?」
「そうだよ。あっ、でも鬼の力が不足しているのは本当だよ。まあ、本命は雅人の全部だけど」
「お前はどうすれば満足してくれるんだ?」
「そんなの決まってるじゃん。幸せな家庭を築いて一生を共にするって誓ってくれるまでだよ」
そうか。こいつの真の目的は僕をからかうことでもいじめることでもない。僕自身だ。
「それは無理だ。理由は三つある。一つ、僕はまだ高校生だ。将来何になるかなんて決めてないし、結婚なんて夢のまた夢だ。二つ、僕はお前とそういう関係になりたくない。というか、お前はもう僕の家族みたいなものなんだから、それ以上を求めるのはやめてほしい。三つ、僕はそんなに好物件じゃない。世の中にはもっといい人がいるはずだ。お前はそういうやつと一生を共にしろ。僕みたいな半妖にこだわるな」
「……あのね、たしかに雅人の言う通りかもしれないけど、私は雅人のことを一人の異性として好きなの。それだけは覚えておいて」
「お、おう」
「ごめんね、迷惑だよね。こんな自分勝手で強引で面倒で」
「それはお前の良さでもあり悪いところでもある。だから、そんなに気にするな」
ああ……またそうやって優しくする。
無意識で無自覚なのは分かってる。
ズルい。ズルいよ、雅人。
けど、やっぱり好き。
欲しくてたまらない。
「ありがとう、雅人。大好き」
「……っ!?」
彼女は僕の唇を奪ってから退室した。
な、何だったんだ? いったい。
僕は唇を指でなぞると、深呼吸をした。
よし、寝よう。
僕はあれこれ考えようとする前に寝ることにした。




