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だーれだ?

 朝ごはんを食べ終わると、僕は食器を洗ったり、歯磨きをしたり、妹の寝癖を直したりした。

 予鈴よれいが鳴るまでに登校すればいいのだから、別に早く学校に行かなくてもいい。

 しかし、もうそろそろ家を出ないと遅刻する恐れがある。

 僕は僕の制服の袖を軽く引っ張りながら、こちらをじっと見つめている妹の頭を撫でる。


「ごめんよ、夏樹なつき。そろそろ時間なんだ」


 妹は少し躊躇ためらいつつ、僕から離れる。


「いって……らっしゃい」


 本当は離れたくない。

 ずっとそばにいたい。しかし、そういうわけにはいかない。

 別に学校をサボってもいいが、皆勤賞を逃したくないという気持ちに負けた。


「いってきます」


 僕はそう言うと、小さく手を振る妹を置いて、家を飛び出した。


「はぁ……体力テストか……」


 身体測定と同じ日に体力テストを行う学校は少なくない。

 しかし、こんなにポカポカしていて気持ちのよい風が吹いているのにダラダラと汗を流すというのは正直、気に食わない。


「次ー、山本ー」


「あっ、はい」


 ここまでの僕の記録は白紙だ。

 なぜかは今に分かる。


「ハンドボール投げか……。少し……いや、かなり手加減しないといけないな……」


 僕は手に持ったバレーボールより一回り小さいボールを優しく投げることにした。

 しかし、僕の体には鬼の血が少なからず流れている。

 そのため、僕の体力を測ることはかなり難しい。


「えいっ!」


 僕が投げたボールは山を貫き、太平洋を越えて、ブラジル付近を通過したのち、僕の手元に戻ってきた。


「先生。投げたボールが戻ってきた場合はどうなりますか?」


 先生は僕の質問に少し困っていたが、記録は無しということになった。

 当然だ。ボールを遠くまで飛ばしすぎてしまったのだから。

 そんな調子で僕の体力テストは散々なものになってしまった。

 握力計の針はMAXを越え、幅跳び用の砂場を飛び越え、五十メートル・千五百メートル走のタイムは速すぎて測れず、上体起こしをしようにも足を支えてくれる人を天井まで吹っ飛ばしてしまう。

 はぁ……どうして僕の体はこんなにも人離れしているのだろうか。

 まあ、去年もこんな感じだったんだけどね。

 妹の昼ごはんは基本的に出前だ。

 しかし、僕の作る料理の方がおいしいと言ってくれる。

 それはそれで嬉しいのだが、作ってくれる人たちに失礼だぞといつも言って聞かせる。


「部活か……」


 僕は昼休みに廊下にある壁紙に目をやった。

 別に目立った部活はない。

 運動部・文化部。どちらもほとんどが毎年全国大会に出場し、素晴らしい成績を残している。

 しかし、僕は部活に興味がない。

 僕の人生は妹のためにあるのだから、部活や恋愛に時間をくわけにはいかない。

 どれだけ体力があろうと妹の役に立たなければ無意味だし、絵や小説の才能があろうと妹を一人ぼっちにさせてしまう要因になりかねないものなら、そんなものはいらない。

 とにかく僕の人生は全て妹に捧げるのだ。

 そんなことを考えていると、背後から誰かに抱きつかれた。


「だーれだ?」

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