丑三つ時
草木も眠る丑三つ時。
僕の部屋にやってきた者が一人……。
「ちょう……だい……」
ん? なんか今声がしたような……。
気のせい、かな?
「ま、さ、と、の、ちょう……だい……」
いや、気のせいじゃない。
この声、聞き覚えがある。
でも、おかしいな。早くても明日の夜から一人で動けるようになるって童子は言ってたのに。
僕は寝たフリをしたまま、布団にくるまっていた。
すると、怪しげな気配が僕のそばにやってきた。
「まーさーとー」
耳元で聞こえるその声は間違いなく彼女のものだった。
「え、えーっと、お前なのか……。童子妹」
僕が目を開けると目の前に彼女がいた。
彼女は気をつけをした状態で浮遊している。
というか、近い! 近すぎる! なんでこんな近くにいるんだ! 普通に怖いぞ!
僕は苦笑しながら彼女にこう言った。
「い、いつから一人で活動できるようになったんだ?」
「ついさっきだよー。雅人がお姉ちゃんと楽しそうに話してるのを聞いてたら、急に力が漲ってきてねー。で、気づいたら一人で動けるようになってたのー」
「そ、そうか。なら、もう少し普通に来てくれよ。びっくりするから」
「ごめんねー。でも、仕方ないんだよー。今の私、とっても不安定だからー」
不安定?
「そ、そうなのか。で、僕に何か用か?」
「あー、そうそう、雅人ー、鬼の力ちょうだーい。じゃないと安定しないのー」
ん? あー、そういえば、こいつは半分僕の鬼の力でできてるんだったな。
「なんだ、そんなことか。えっと、じゃあ、少し離れてくれ。このままだとやりづらいから」
「お姉ちゃんとはキスしてたくせに……」
え?
「雅人ー、差別は良くないよー。ほらー、私にもしてよー」
「え? いや、さすがにそれは……」
「できないの? じゃあ、私からしてあげるよ。目、閉じて」
え? ちょ、本当にするのか?
今、ここで?
こ、心の準備なんかできてないし、それに……。
「ま、待ってくれ! 別にキスしなくても手を握るとかでいいだろ!」
「良くない。それだと力を受け取ることはできても愛を受け取ることはできない。私は雅人の愛が欲しいの。キス以上のことをしたいのなら、そうするけどどうする?」
な、なんだ? こいつ。
こいつ、こんなに冷たい目をしたことあったか?
「雅人、私はもっと生きていたいの。でも、ただ生きているだけだと物足りない。だから、私は愛を求めるの。言ってること、分かる? 分かるよね?」
「お、お前の言ってることは分かる。けど、いきなりキスはちょっとレベルが高いというか」
「そっか。じゃあ、違う方法で一つになるしかないね」
え? そ、それってまさか……。
「ごめんね、雅人。雅人の初めて、私がもらうよ」




