密室
僕が童子を離そうとすると、夏樹と羅々が保健室にやってきた。
「お兄ちゃん! 助けに来たよ! ……って、お兄ちゃん何やってるの? どうして……童子ちゃんと抱き合ってるの? ねえ、教えてよ」
「あっ、いや、これはただの定期検診で……」
「それは建て前です。本命は……」
座敷童子の童子は僕が夏樹に誤解を解こうと脳をフル回転している時に僕の唇を奪った。
彼女の唇は小さめだが、柔らかさと温もりは十分伝わった。
「今のが本命です。雅人さん、少しはドキッとしましたか?」
「あっ……い、いや、その……い、今はそれどころじゃないというか……なんというか」
「今すぐ、お兄ちゃんから離れろ! 淫乱ロリババア!」
夏樹(雅人の実の妹)は自身の黒い長髪を伸ばして童子を拘束する。
「おやおや、いけませんね。女の子はもっとお淑やかに……」
「黙れ! 私の前でイチャつくな! お兄ちゃんの体も心も、あと〇〇とか〇〇とかもぜーんぶ私のものなの! だから、私の許可なくお兄ちゃんとイチャつくな!」
「あなたはいつもそうですね。自分が良ければそれでいい。しかも独占欲が強すぎる。救いようのないクズですね、あなたは」
「なんだと!」
僕は夏樹を止めに入る。
「夏樹! 一旦落ち着け! 定期検診をしていたのは本当だし、童子とイチャついてたのも事実だ。けど、さっきのキスはお前が嫉妬するのを見越してやったんだ。だよな? 童子」
「まあ、そうですね」
「ほらな? だから、今すぐ童子を解放してくれ。こいつがいなくなったら、僕の鬼の力を調整できなくなるし、家の結界も消滅する。そんなの嫌だろう?」
夏樹は無言で彼女を解放した。
「ありがとう、夏樹。よし、じゃあ、そろそろ教室に……」
「お兄ちゃん成分が足りない」
え?
「お兄ちゃん成分が足りない。このままだと私は午後の授業を受けられなくなる」
「そ、そうか。えっと、じゃあ、手でも握ってやろう」
夏樹は徐々に僕をベッドまで追い詰める。
「上書きするからベッドに横になって」
「え? 上書きって、お前まさか」
「早く横になりなさい! 今すぐに!」
「は、はいっ!!」
僕がベッドに横になると童子は羅々と共に保健室から出ていった。
あれ? これ完全に密室になったんじゃ。
「お兄ちゃん、目閉じて」
「え? ちょ、お前まさか本当に……」
夏樹が静かに顔を近づけてくる。
僕は夏樹の指示に従った。
そうしないと今以上に夏樹を傷つけてしまいそうだったからだ。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
「な、夏樹……息、できない、から……そんなにがっつくな」
「無理。今は私が満足するまでおとなしく私の指示に従って。分かった?」
「わ、分かった」
「了承したね? 後戻りはできないよ」
「お前になら、何をされても構わない。だから、夏樹の好きにするといいよ」
「ありがとう、お兄ちゃん。それじゃあ、いただきます」
僕たちは昼休みが終わるまでベッドの上でお互いの存在を肌身で感じていた。




