リミッター
僕が帰宅すると座敷童子が玄関にいた。
「なんだ、いたのか」
「私がここからいなくなる時はどうしようもなくなった時か、この家の幸福を全て吸収し尽くす時です」
なんだよ、それ。
物騒なこと言うなー、このちびは。
「何か言いたそうな顔をしていますね」
「そんなことないよ。それより今日はもう遅いから、早く寝るぞ」
僕が手洗い・うがいをしに洗面所に向かおうとすると、彼女は僕の手を掴んだ。
「なんだよ」
「……少し黙っていてください」
なんで僕がお前の言うことを聞かなくちゃいけないんだ?
「いやだ、と言ったら?」
「その時は無理やりにでも、あなたを押し倒します」
なんで押し倒す必要があるんだよ。
「あー、はいはい、分かった、分かった。おとなしくしてればいいんだろ?」
「よろしい」
いちいち上から目線だな、こいつは。
「…………!」
「……?」
何かに気づいたのか?
いや、何かに驚いているのかな?
「どうしたんだ? 僕の体に何かあるのか?」
「いつから……」
は?
「いったい、いつから……リミッターが外れて」
「リミッター? 何の話だ?」
彼女は僕を僕の部屋まで引きずりこんだ。
「おいおい、いったいどうしたんだ? そんなに慌てて」
「当の本人が気づいていないということは、まだ完全に外れているわけではないということですね」
なんだ? さっきから何をブツブツと。
「とりあえず上だけでいいので服を脱いでください」
「待て。その前に色々教えてくれ。僕の体に異常な部分があったのか?」
彼女は歯を食いしばると、僕の服の襟首を掴んだ。
「つべこべ言わず、さっさと脱いでください」
「わ、分かったよ。脱げばいいんだろ? 脱げば」
彼女は僕が上半身裸になると、心臓がある方の胸に手を当てた。
「……なんだ? お前まさか、そういう趣味でもあるのか?」
「ないですよ。静かにしてください」
はぁ……まったく、何なんだよ。
彼女は数秒間、そのままの体勢だった。
「単刀直入に言います。今日から鬼の力を使わないでください」
「えーっと、何がなんだかさっぱり分からないから、ちゃんと説明してくれないか?」
彼女は「あなたがそれを知る必要はありません」と言った。
「そうか。なら、あれをやってから寝るよ。おい、やるんだろ? 力の制御」
「やりませんよ、これからずっと。とにかく、安易に鬼の力を使わないでください。いいですね?」
な、なんだよ。
勝手に決めるなよ。
「いいですね?」
圧がすごいな……。
「わ、分かったよ。安易に鬼の力を使わないよ」
「よろしい。では、おやすみなさい」
彼女はそう言うと、その場からいなくなった。