地獄
座敷童子の童子による耳掃除が始まった。僕は彼女の膝に頭を乗せている。
彼女は僕の耳の周りを耳かき棒の先端でなぞっている。
いつ耳の穴にそれを入れられるのか分からないため体が微かに震えている。
「どうしたのですか? もしかして私に耳を弄られて興奮しているのですか? だとしたら、ただの変態さんですね。あー、この場合はマゾですかね?」
「し、知るか! そんなこと! い、いいから早く終わらせてくれ! なんかおかしくなる!」
「おかしくなる? 私はあなたの耳をきれいにしているだけですよ? どうしてそんなに怯えているのですか?」
こ、こいつ絶対わざとやってるだろ!
なんでいちいち耳元で囁くんだ?
いじめだよ! これは!
「み、見間違いじゃないか? 僕は別に怯えてなんか」
「嘘は良くないですよー。本当は耳を弄られて興奮してるんですよね? それといつ耳に傷をつけられるのかとゾクゾクしている。違いますか?」
「ち、違う……僕はそんなこと思ってない」
「そうですか……。夏樹さん、雅人さんが暴れないように髪で縛ってください」
「はーい」
夏樹はニコニコ笑いながら僕の体を黒い長髪で拘束した。
う、動けない。動いたら死ぬ。確実に死ぬ。
「お兄ちゃん、大丈夫? のど乾いてない?」
「だ、大丈夫だよ。あっ……! ちょ、童子! いきなりそんなところ弄るな!」
「あなたが動くから手元が狂ったのですよ? 私のせいにしないでください。それともこのまま耳の奥まで刺してほしいのですか?」
なんでそうなるんだよ! そんなことしなくていいよ!
「いえ、結構です。優しくしてください」
「はい、分かりました」
「童子ちゃんばっかりズルい! お兄ちゃん、私にも何かさせて!」
「え? いや、特にしてほしいことはないからいいよ」
童子の耳かきだけでお腹いっぱいだから。
「そうなの? うーん、じゃあ、指のマッサージしてあげるね」
「夏樹、僕の話聞いてたか? 今は別に必要な……ひっ!」
「動かないでください。あなたは今、私に命を握られているのと同じなのですよ? 死にたくなかったら、おとなしくしていてください」
「ひゃ、ひゃい……」
「あははは、お兄ちゃん泣くほど気持ちいいの? ねえねえ、どうなのー? ねえったら、ねえ」
「あ、あははは……」
もう勘弁してください。
地獄が終わる頃、僕の意識はどこかに飛んでいっていた。




