鬼畜コケシ
ようやく意識がはっきりしてきた。
まったく、今日退院したばかりなのにどうしてあんなことされないといけないんだろうな。
僕は頬を膨らませながら座敷童子の童子の方をじっと見つめた。
「何ですか? 私に恨みでもあるのですか?」
「あんなことされたら誰でも恨むと思うぞ」
「あれは霊力がきちんと全身に行き渡っているのかどうかを調べるために必要なことなのですよ? 少し体を弄られたくらいで大袈裟なんですよ、あなたは」
「な、なんだと! なら、お前も体験してみろよ!」
「嫌です。というか、私はそんなことする必要はありません」
不公平だな……。
「そうかよ。で? もう他に調べることはないのか?」
「はい、もうないです。が、いい機会なので耳掃除をします」
「そうか。もうないのか。なら、もう今日は寝ていいよな。それじゃあ、おやすみなさい」
僕が童子に背を向けて寝ようとすると彼女は僕の耳元までやってきて、こう囁いた。
「いいですか? これはご褒美なのですよ? ここで断れば、あなたは絶対に後悔します。それでもいいのですか? 良くないですよね? ね?」
「み、耳元で囁くな! くすぐったいから!」
「やめません。あなたが耳掃除をしてくださいと言うまで、ずっと耳元で囁きます。それが嫌なら、さっさと屈服してください」
言い方がいちいち上から目線なのが気に入らないけど、ずっとこんなことされたくないな。
「はぁ……。お願いします。耳掃除をしてください」
「は? 僕の耳をいじめてください、でしょう?」
「え? いや、お前そんなこと一言も……」
「さっさと言え、さっさと言え、さっさと言え、さっさと言え、さっさと言え、さっさと言え……」
怖い! 怖い! 怖い! もう! 何なんだよ! 今日おかしいぞ! お前!!
「ぼ、僕の耳をいじめてください。お、お願いします」
「いじめる? そんなことしませんよ。普通にきれいにするだけですよ。あなたはいったい何を言っているのですか?」
お前がそう言えって言ったから言ったんだよ!
あー、もうー! 腹立つなー!
「あ、あははは、まったくその通りだなー」
あー、一発ぶん殴りたいなー。
「では、準備があるので私はしばらく席を外します。夏樹さん、私が戻ってくるまで雅人さんを好きにしていいですよ」
「は? ちょ、お前勝手に決めて……」
「え? いいの? やったー! そ、それじゃあ、遠慮なく……。お兄ちゃーん! 私を受け止めてー!」
童子が戻ってくるまで僕は夏樹にずっと抱きしめられていた。
何度か窒息しかけたが、なんとか持ちこたえた。
あの鬼畜コケシ……絶対に許さない! いつか絶対仕返ししてやる!




