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これは夢です

 雅人まさとが眠っている間、雅人まさとの中の鬼、鬼姫ききは言霊の力を使って神社に封印されている自分の体を取り戻した。その直後、彼女の暴走を恐れた妖怪や暗殺者たちが彼女の元に集結したが彼女に触れることすらできなかった。殺してはいない。全てみねうちだ。

 彼女は人造妖怪を生み出している施設、関係者を言霊の力で存在ごと抹消したあと、彼ら彼女らを教育する機関を創設すべく日本政府に要請した。

 ちなみに人造妖怪とは彼女が暴走した際の抑止力になる存在である。

 雅人まさとという人間とその他大勢の者たちと接した彼女は昔、自分の縄張りを人間の子どもが荒らしたことを完全にとは言わないが許した。

 このことを知った日本政府は妖怪と協力して島を作り、そこに人造妖怪の教育機関『妖怪学校』を創設した。

 ふーちゃんはそこの最初の卒業生だ。もちろん他の姉妹たちと一緒に卒業した。

 鬼姫ききは自分が万が一、暴走した時のために雅人まさととのリンクを解除しないことを約束。

 もちろん、そのことを記した書類を日本政府に提出した。

 ちなみに夏樹なつきが破壊した学校は童子わらこ姉妹と他の文字使いが協力して元通りになっている。

 え? さっきから説明している僕が誰かって?

 それはほら、あの白い蝶だよ。

 ついでに言っておくと僕は『妖怪管理委員会』の会長だ。

 雅人まさとが完全に鬼化してしまった時、もしくは鬼姫ききが再び暴走した時に二人を排除する予定だったんだけど、あの夏樹なつきとかいう二口女がキス……じゃなくて『癒しの奇跡』を使ってくれたおかげで雅人まさとは一命を取り留めたんだ。

 その間、彼の肉体は完全に鬼化した後それを人間でも扱えるように進化したよ。

 彼女の力のおかげかな? それとも愛の力かな?

 まあ何はともあれ、人間と妖怪のいいとこ取りの最強ハイブリッドが誕生したわけだね。

 まあ、その雅人まさとは三百年経った今でも目を覚ましていないんだけどね。

 おっと、今日も彼のお見舞いに来た人物がいるね。

 僕が彼のそばにいることがバレると色々厄介なことになるから僕はこれで失礼するよ。


「……お兄ちゃん。どうして……どうしてまだ眠ってるの? 私、あれからずっと見た目が変わらないんだよ。おかしいよね、座敷童子じゃないのに。私ね、高校を卒業した後モデル事務所に入ってね。あっ、お母さんと同じモデル事務所だよ。でねでね、今もお母さんと一緒に仕事をしてるんだよ。髪とか服はお父さんが全部やってくれてるの。二人ともすごいんだよ、本当に。あっ、ごめんね。お見舞いに来るたびに同じような話してるよね。あっ、そろそろ次の仕事に行かないといけないから、もう行くね。じゃあ、またね。お兄ちゃん」


 夏樹なつきが病室から出ていくと同時に彼の右手が少しだけ動いた。


 *


 夏樹なつきがタクシーで次の現場に向かっていると、がしゃどくろが現れた。

 それは車をミニカーでも扱うかのように片手で持つと指でタイヤをパンクさせた。

 運転していたたぬきは車から脱出。茶釜に変化して着地した。

 夏樹なつきも脱出を試みたが、目の前に現れた吸血鬼に誘拐された。

 とある倉庫まで運ばれた夏樹なつきは魔女の魔法で霊力を封じられてしまった。

 倉庫周辺にやってきた警察官たちを倒しているのはフランケンシュタイン、狼男、魔女、悪魔たちである。

 吸血鬼はゾンビたちに彼女を縄で手足を拘束するよう指示した。

 それが済むと吸血鬼はゾンビたちに外で味方の援護をするよう指示した。


「わ、私をどうする気? 目的は何? お金だったら、いくらでも用意する。だから」


「私は座敷童子のように、いつまでも成長しない君の血が欲しいのだよ。分かるかな? 君は今日から私の食料になるのだよ」


「そ、そんなの嫌だ! 今すぐ私を解放しなさい! さもないと!」


「この日のために私は揃えられるものは全て用意した。文字と言霊の力が効かなくなる薬。人間と妖怪が生み出したあらゆる武器、技が効かなくなる薬。肉体と精神、そして魂を傷つけることができなくなる薬。その他諸々、今日のために集めた。そして、私はそれらを全て飲んだ! これが何を意味するのか分かるかね? そう! この世界で私を倒せる者はもういなくなったのだよ!!」


「そ、そんな……! い、嫌だ……。私の全てはお兄ちゃんのもの。お兄ちゃん以外の誰かに血を吸われたくない。お兄ちゃんだったら、いくらでもあげる。けど、あなたはそうじゃない。い、今すぐ私の前から消えなさい! この変態! ロリコン!!」


「いいねー。少しくらい抵抗してもらわないと面白くない」


「や、やめて! こっちに来ないで! 誰か、誰か助けて!!」


 吸血鬼は彼女を押し倒すと、彼女の頭をそばにいるフランケンシュタインに固定させた。


「助けは来ているようだが平和ボケしたこの国に私たちを止めることはできない。諦めたまえ」


「いや! やめて! お願いだから!!」


 吸血鬼は彼女の血を吸うために彼女の首筋に口を近づける。

 その間、彼女は兄と過ごすはずだった高校時代や今までの妖生を思い浮かべていた。

 三百年前に兄としたキスのことを彼女は後悔していない。

 あれがなければ、兄は確実に死んでいたからだ。

 だが、最期にもう一度だけ彼の顔を見たかった。声を聞きたかった。体を抱きしめたかった。

 その思いが彼女に勇気を与えた。

 吸血鬼につばを吐いたのだ。

 それは彼の頬に付着した。


「ふん、無駄なことをしおって」


「お願い。届いて……。助けて! お兄ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」


 その声は無自覚のシスコンの兄の元まで届いた。


「お兄ちゃん? あー、たしかお前の兄は半妖だったな。だが、三百年経った今でも昏睡状態だそうだな。名前はたしか……」


山本やまもと 雅人まさとだ」


「あー、そうそう。たしか、そんな名前だったな。まあ、そんなことはどうでもいい。今はこの娘の血を」


 吸血鬼は壁を貫き海面で水切りを数回したのち、海に飲み込まれた。

 たった一回、こめかみを指で弾かれただけで吸血鬼は数十メートル先の海に沈んだのである。


「お、お兄ちゃん!!」


「な、なにい!? ば、バカな! やつは今、病院のベッドにいるはずだ!」


「その情報はもう古い」


 彼はドーピングしている妖怪たちを瞬殺した。


「少し眠っている間に、ずいぶんと弱くなったんだな。いや、違うな。僕が強くなりすぎてしまったんだ」


 彼が静かにそう言うと、先ほどの吸血鬼が壁にいた穴から倉庫に戻ってきた。


「半妖のくせに……調子に乗るなああああああああああああああああああああああああああ!!」


 吸血鬼が彼の首を手刀で切り落とそうとする。が、その前に吸血鬼の首が彼の手刀によって切り落とされてしまった。


「なっ……!? き、貴様あああああああああああああああああああああああああ!!」


「なんで怒ってるんだ? あと、お前はもう戦えない」


「はぁ!? この私が半妖に倒せるわけ……」


 それがやつの最後の言葉だった。

 彼がやつの首を切り落としている時、やつの体では吸収し切れないほどの霊力を流し込んだのだ。

 風船に空気を入れすぎると破裂する。

 それと同じ原理だ。

 彼は指をパチンと鳴らす。

 この騒動に関係している存在たちの細胞が死滅する呪いをかけたのだ。

 彼は再び指をパチンと鳴らす。

 その直後、彼と夏樹なつき以外の時が止まった。


「……本当に……お兄ちゃん、なの?」


「ああ」


「え、えっと、私を助けに来てくれたんだよね?」


「まあ、そうだな。けど、本来の目的はそれじゃない」


「ど、どういうこと? というか、急展開すぎて頭が追いつかないよ。お兄ちゃん、全裸だし、なんか強くなってるし、ヒゲないし、髪整ってるし。あっ! もしかして今日、私がお見舞いに行った時から起きてたの?」


「いや、その時はまだ意識ははっきりしていなかった。僕の意識が覚醒へと向かい始めたのは、お前が病室を出た後からだ」


「そ、そっか。え、えっと、ここまでどうやって来たの?」


「分からない。気づいたら、ここにいた」


「へ、へえ、そうなんだ。お、音もなく現れた時はびっくりしたよー。どんなトリック使ったの?」


「分からない。障害物をすり抜けてきたのか、あるいは瞬間移動してきたのか……」


「そ、そっか。え、えっと、と……とりあえず服着ようよ。風邪ひくよ」


「ああ、そうだな」


 こんなところに服はない。

 なので、彼は自分の霊力を集めて白い布を作り、それを身にまとった。

 二人は雅人まさとが霊力で作った白いマットの上に座る。


夏樹なつき


「ひゃ、ひゃい!!」


「僕はお前のことが好きだ。結婚しよう」


「え? いや、あの、なんというか、いきなりすぎて反応に困るんだけど」


 彼は躊躇ちゅうちょなく唐突に彼女のくちびるを奪った。


「……!! お、おおおおお、お兄ちゃん!? い、いいいい、いきなり何を!!」


「これが僕の気持ちだ。三百年前、お前が僕にしたのと同じだ」


「そ、そそそ、それはそうだけど! あー! もうー! ズルいよ! お兄ちゃん!! 今まで以上に好きになっちゃうよ!!」


夏樹なつき。一ついていいか?」


「え? あ、あー、うん、いいよ」


「実の兄妹って、今も結婚できないのか?」


「あー、まあ、そうだね。残念だけど」


「そっか。じゃあ、今すぐその制度をなくそう」


「それができたら苦労しないよ……って、お兄ちゃん、そんなことできるの?」


「できる、と思う。今の僕なら」


 ええ……。


「お、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「それは、さ……。私たちでなんとかしようよ」


「たち? 多分、僕一人でなんとかなるぞ?」


「いや、あの、そうじゃなくてね。ほら、初めての共同作業的な……」


「あー、なるほどな。分かった。そうしよう。で、どうする? これから」


「これから? あー、えっと……どうしようか」


「まあ、それはぼちぼち考えていこう。夏樹なつき、そろそろ外に出よう」


「え? あー、うん、そうだね」


 雅人まさとが指をパチンと鳴らすと世界の時が動き始めた。

 この事件のことを知っているのはその二人と一部の者たちのみ。

 雅人まさとが記憶やらカメラやらネットやらをいじって情報が拡散する前に消去したからだ。

 それから数日後、兄妹でしてはいけないという制度はないのに兄妹で結婚してはいけないという制度があるのはおかしいということに気づいた雅人まさと夏樹なつきは遺伝やら歴史やら生物やらの勉強をし始めた。

 それから何世紀か経った頃、人類が滅亡した。

 人がいなくなった世界に人がいた頃の決まりなんてものは効力を発揮しない。

 諸説あるが金太郎やマーリンのような存在は昔からいた。

 というか、遥か昔のように妖怪は妖怪の世界で生きればよかったのではないだろうか。

 人と妖怪が助け合い始めたのは鬼姫ききの一件があったからだが、同じ星に生まれたのだから協力して生きていこう。

 そんな感じで今までやってきていた。

 だが、人類は滅亡するその日まで不老不死を実現することはできなかった。

 この星にそれを実現できる物質が存在していたとしても人類は滅亡するまでに、それを見つけることができなかった。

 人類がいなくなっても地球はまだ生きている。

 僕たちはこの星が終わりを迎えるまで精一杯生きていかなければならない。

 それが生き残った者たちにできる唯一のことなのだから。

 え? 雅人まさと夏樹なつきが今どうしているかって?

 結婚してから……いや、その前から毎晩のようにやっていたし結婚した時は二人の子どもたちに囲まれていたね。

 あんなに仲のいい夫婦はそんなにいないと思うよ。

 そうそう、彼が結婚披露宴で言ったあのセリフは名言中の名言だったね。


「僕の妹は僕の嫁ですが何か問題ありますか?」


 もちろん問題ないよ。

 いつまでもお幸せに。

 それじゃあ、また会おう。


 日記 孫の誕生から終わりまでを書き記すよ 妖怪管理委員会会長 山本やまもと 永遠とわ(雅人の祖父)

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