金色の光
僕の意識が自分の体に戻る。
僕がゆっくりと目を開けると学校を破壊している夏樹の姿が目に入った。
黒い長髪はまるで鞭のようだった。
だが、その強度は鋼以上だった。
建物を破壊できる髪なんて、めったにない。
夏樹、お前の髪は何かを破壊するためにあるんじゃない。
その髪は……。
「雅人さん! 早く夏樹さんをどうにかしてください!!」
「ああ」
座敷童子の童子(姉)は落ちてくる建物の残骸を文字の力で浮かせてから、ゆっくりと地面に置く作業をしている。
僕は一日三分しか使えない鬼の力を解放すると、夏樹のいる場所までジャンプした。
夏樹の髪が僕を殺そうと襲いかかる。
僕は身を捩って回避する。
頬や腹部、足にそれが掠る。
痛みはない。出血は少量。行ける。
僕がそう思った直後、それは僕を拘束した。
いつものようなキツめではなく、殺意剥き出しの拘束。
それは僕の骨や内臓を破壊しようとしている。
いつもなら抵抗なんてしない。
だが、今はそんなことできない。できるわけがない。
僕は霊力を全身に行き渡らせて、それから脱出した。夏樹がなぜ浮いているのかは分からない。しかし、これだけは分かる。
このまま放置しておくのはダメだということだ。
僕は両手を広げながら夏樹の元に向かう。相変わらず黒い長髪が僕を攻撃してきたが、僕は回避することなく真っ直ぐ夏樹の元に向かった。
髪は僕の体のほとんどを貫いていった。
さすがに意識が飛びそうになったが、夏樹の苦しみと比べたら……いや比べるまでもなく、どうでもいい。
僕が夏樹を抱きしめた瞬間、僕の心臓に大穴が空いた。
僕は夏樹に自分の血がかからないように地面に向かって吐血した。
夏樹は僕を振り落とそうとした。
夏樹がこんなに暴れたことはない。
前代未聞の行動だ。
だが、僕は夏樹の兄としての役目を果たさなければならない。
その結果、僕の命が消えてなくなってしまうとしても。
「夏樹……僕が悪かった。許してくれとは言わない……。けど、これだけは言わせてくれ。僕はこの世界の誰よりも……お前のことを……愛しているよ」
「……オニイ、チャン?」
「良かった……。僕の言葉がとど、い……て……」
彼が意識を失うと夏樹はようやく我に返った。
「おにい、ちゃん……? ……!! お兄ちゃん、しっかりして! ねえ! お兄ちゃんってば!!」
彼の命が今まさに消えようとしている。
そのことを悟った夏樹は後頭部にあるもう一つの口にこう言った。
「……お願い。私はどうなってもいいから、お兄ちゃんを助けて」
「悪いが、それはできない。なぜなら、その力を扱えるのはお前だけだからだ」
私にそんな力はない。
髪の毛を操ることしかできない私にお兄ちゃんを助けることなんてできない。
「それって、今すぐできるものなの?」
「ああ、もちろんだとも。だって、それは……お前がそいつの唇にキスをすればいいのだから」
あー、そっか……。
お父さんやお母さん、あとお兄ちゃんが本当に好きな人としかキスをしちゃいけないって言ってたのは、私の力の存在を隠すためだったんだね。
「お兄ちゃんとのファーストキスは夏祭りの時にしようと思ってたけど、それは無理っぽいね。でも、別に悪くはないよ。私、ずっとお兄ちゃんに守られてたから……それじゃあ、行くよ」
彼女が彼の唇にキスをした直後、二人は金色の光に包まれた。




