体借りるよー
昼休みになると僕は童子(姉)がいる保健室に向かった。
まあ、文字の力に抗えなかっただけなのだが。
「失礼します」
「ようやく来ましたか」
いつもは着物を着ている美少女……いや美幼女が今日は白衣を着ている。
うーん、やっぱり何を着てもコケシにしか見えないな。
髪型を少し変えたら……あー、それができないからそのままなんだよな。忘れてた。
「昼休みになったら僕がここに来るようにしたのはどこの誰だったかな」
「あなたのことは信用していますが、保険なしだと不安なので文字の力を使わせてもらいました」
はぁ……こいつにこういうところがなかったらいいのに。
「さっきから失礼なことを考えていませんか? 私はこれでもあなたより年上なのですから、あまり調子に乗っていると潰れますよ?」
「物騒なこと言うなよ。これからは気をつけるからさ。で、何だっけ?」
彼女は少し苛立ちを露わにした。
「今朝、あなたが言っていた悩みを解決するためにここに呼んだのです。さぁ、早くそこにあるベッドに横になりなさい」
「はいはい」
なんでベッドに横になる必要があるんだ?
まあ、いいか。
僕は童子(姉)の指示に従った。
これからいったい何が始まるのだろう。
「では、始めます。雅人さん、あなたは一日に……いえ、一週間の間に何回ヤッているのですか?」
ん? んんんんんんん!? 今こいつ、なんて言った?
あー、えー、ま、まあ、待て。
僕が聞き間違えただけかもしれないな。
「えっと、今のは何の冗談だ?」
「冗談ではありません。妖怪だろうと人間だろうと半妖だろうと、あなたはオスです。男子です。男子高校生です。性に対して興味を抱いていない方がおかしいです」
そ、そういうものなのかな。
「いや、それはまあ、分かるよ。けど、どうしてお前に僕が週に何回ヤッているのかを教えないといけないんだ?」
「あなたの性欲がどれほどのものかを知っておかないと、あなたの悩みが永久に解決しないからです」
そ、そうなのか?
「えっと、それを知っておくとお前が僕に的確なアドバイスをしやすくなるってことか?」
「まあ、簡単に言うとそんな感じですね」
なら、最初からそう言えよ。
「そうか。だが……」
「言わないとあなたを性転換させますよ?」
か、体が動かない!?
な、なんで!?
「言い忘れていましたが、そのベッドには私の文字の力を付与しています。私が合図をすると、あら不思議。一瞬で性転換してしまいます。ついでに言っておくと、あなたが私の提案を断ろうとすると体が麻痺するように予め、あなたの首筋に『麻痺』という文字を書いておきました」
こ、こいつ! 最初からこうするつもりだったんだな!
「さぁ、どうします? おとなしく情報を吐くか、性転換するか、好きな方を選んでいいですよ」
最初から選択肢なんてないんだろ。
はぁ……仕方ない。おい、鬼姫。
なあに?
この状況をなんとかしてくれ。
えー、ヤダー。
まあ、そう言うなよ。僕が性転換してもいいのか? 精神が男で体が女。そんなの嫌だろ?
うーん、ちょっと興味はある……けど、気持ち悪いから手伝ってあげるわ。
ありがとう。じゃあ……。
その代わり、今日の夜、あたしと一緒に寝て。
え? あー、まあ、別にいいけど。
本当? その時になって拒んだりしたら死よりも恐ろしいことをするわよ?
あー、はいはい、分かった分かった。そんなこと僕はしないから早くこの状況をなんとかしてくれ。
はーい。それじゃあ、少しの間、体借りるよー。
その直後、僕の意識は遠のいていった。




