アタック
昇降口で待っている一人の美少女。
見ただけで涙が出てしまうほど美しい黒髪ロングは実の兄すらも虜にしてしまう。
「あっ、お兄ちゃん! もう! 今までどこにいたの?」
「保健室だよ。あっ、別に女の子を連れこんでイチャイチャしてたわけじゃないからな?」
知ってるよ。私はお兄ちゃんのことが大好きだし、お兄ちゃんも私のこと大好きだもん。
そんなことするはずないよ。
「そんなの分かってるよ。今日来た変な転校生が起きるまで見張ってたんだよね?」
「うん、まあ、そんなところだな」
まあ、もう顔も見たくないがな。
「へえ、そうなんだ。えっと、たしか鬼人なんでしょ? その子」
「らしいな」
鬼人。
鬼憑きより鬼に近い存在……か。
「お兄ちゃん、どうしたの? ねえねえ、お兄ちゃん」
「ん? あー、すまない。なんでもないんだ。さぁ、早く帰ろう」
二人が昇降口を出ようとした時、やつがやってきた。
「待てーい!」
「なんだ、またお前か。いったい何の用だ? 僕たちはこれから帰るところなんだが」
鬼人『山田 雅史』はニシッと笑う。
いったい何を企んでいるのやら。
「帰る……ね。なあ、お前の妹……よく見ると結構可愛いんだな」
「は? ま、まあ、そうだな。それは否定しようがないな」
こいつはいったい何がしたいんだ?
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。この人が噂の転校生?」
「ああ、そうだ。こいつが噂の転校生だ」
なんだか嫌な予感がするな。
「でさ、俺ぶっちゃけ……そいつのこと気に入ったんだよ。だからさ、そいつを俺にくれよ」
「は? お前、何言ってるんだ? 僕の妹が可愛いからって、そこまでするのか?」
それに……僕はお前が嫌いだ。
息をするように力を使うお前のことが嫌いだ。
「惚れた女が手に入るのなら、俺は何だってやるぞ。さぁ、俺と勝負しろ! えーっと、名前なんだっけ?」
「『山本 雅人』だ。で、こっちが妹の夏樹だ」
「へえ、夏樹か。いい名前だな」
今の言葉に嘘はない……な。
こいつはそんな嘘がつけるほど器用じゃない。
ノリと勢いだけで生きてきた……みたいな感じだろう。
「なあ、夏樹ちゃん。俺の彼女になってくれないか?」
「なっ! お前、何を言って……!」
夏樹(雅人の実の妹)は雅人が最後まで言い終わる前にやつにこう言った。
「お断りします。私、お兄ちゃん以外、恋愛対象として見れないの。ごめんなさい。じゃあ、私たちはこれで失礼します。行こう、お兄ちゃん」
「お、おう」
やつは追ってこなかった。
諦めたのか? いや、あいつはきっと諦めていない。次は違う方法でアタックしてくるはずだ。




