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期待するな

 やつが目を覚ます。

 やつは見知らぬ天井と数秒間にらめっこをしたあと、勢いよく上体を起こした。


「……はっ! こ、ここはどこだ!?」


「学校の保健室だよ。お前、よく生きてたな。鬼人だからか?」


 どうやら、やつは自分がどうしてここにいるのか分からないようだ。

 仕方ない、説明してやろう。


「お前はぬりかべ先生の得意技、衝撃反射の効果を知らずに先生を殴った。そのせいでお前は放課後になるまで気絶していたんだよ。まあ、要するに勇敢と無謀は違うってことだ。いや、あれは自滅とも言えるな」


「自滅だと? この俺がか?」


 そうだよ。


「まあな。さてと……帰るか」


「ま、待ちやがれ! 俺はまだお前と戦ってねえぞ!」


 お前にその気があっても僕にはないんだよ。


「だからどうした? お前と戦って、僕に何かいいことでもあるのか?」


「そんなこと知らねえよ。俺はただ、お前と……この学校のトップと戦ってみたいんだよ! それに俺みたいな鬼人とまともにやり合えるのは鬼人と鬼憑きぐらいだからな!」


 僕が鬼憑きじゃなかったら、こいつと出会うことはなかったということか。

 うーん、でもやっぱり面倒だな。


「なるほど。お前の考えは分かった」


「じゃあ!」


 期待するな、熱血系主人公。


「だが断る」


「な、なんでだよ! 今の戦う流れだろ! 普通!」


 お前の普通と僕の普通は違うんだよ。


「知るか。とにかく今日はダメだ。もう夕方だし、妹を待たせてるからな」


「そういえば、お前には妹がいたな。たしかメデューサみたいな黒髪ロングの……」


 あ?


「おい、お前今なんて言った?」


「え? メデューサみたいな黒髪ロングの……」


 僕はその言葉を聞いた瞬間、体が沸騰した。


「メデューサ、だと? 取り消せよ、今の言葉! うちの妹の髪はへびじゃない!!」


「あー、まあ、そうだな。あれはそんなんじゃないよな。すまねえ、別に悪気があったわけじゃないんだ。許してくれ」


 やべえ、こいつの霊力、そこらの妖怪より圧がすげえよ。


「分かればいいんだよ、分かれば。じゃあな、転校生。また明日」


「お、おう、また明日」


 はぁ……今日はなんだかどっと疲れたな。

 や、やべえ……手の震えが止まらねえ。

 あいつはやっぱり、俺のライバルにふさわしい。

 どうにかして、あいつと戦いてえな。

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