手の目と朧車タクシー
童子(妹)は鼻歌を歌いながら雅人の少し前を歩いている。
「上機嫌だな」
「えー? そうかなー?」
どこに行くのか……ではなく、誰と行くのか。
それが問題だ。
それを彼女は知っている。
だから、彼女は上機嫌なのだ。
「うん、なんか帰りに四つ葉のクローバーを見つけた小学生みたいだ」
「しょ、小学生って……。私、そんなに幼くないよー」
じゃあ、何歳なんだ? という問いをする前にそれはやってきた。
「すみません。このあたりにポストはありませんか?」
手に目がある盲目の僧がポストの場所を訊ねてきた。
こいつは……この人は『手の目』だな。
「ポストですか? それなら、ここを真っ直ぐ行った先にありますよ。よければ、案内しましょうか?」
「いえ、結構です。ありがとうございました」
彼はお礼を言うと、その場から去った。
「……妖怪ってさ」
「ん?」
童子(妹)は彼の手を握る。
「そうなりたかったからなったっていう例はあんまりないんだよね」
「まあ、僕や夏樹もその部類に入るから、なんとなく分かるな」
気づいたら、いつのまにかそうなっていた。
そのせいで余計に苦労したり、事件に巻き込まれたりした。
いつか、そんなことがなくなるような日が来るのだろうか。
「でも、私は感謝してるよ。だって、お姉ちゃんと雅人がいなかったら、私はここにいないもん」
「そう、だな。悪いことばかりじゃないよな」
朧車タクシーが僕たちの横を通り過ぎていく。
その中に乗っている人たちの姿は見えなかったが、賃走という文字が額にあったため、誰かが乗っているということは分かった。
「雅人ー、早く行こうよー。日が暮れちゃうよー」
「ああ、そうだな。少し急ごう」
彼女は満面の笑みを浮かべながら「うん!」と言った。
今日は平和だ。




