練習、だよ☆
ご主人様が作ってくれた『かけうどん』はとてもおいしかった。
出汁と麺がマッチしていたからかな?
それとも、ご主人様の愛情が込められていたからかな?
どちらにせよ、おいしいことには変わりない。
そうだ。ご主人様にお礼を言いに行こう。
ちゃんと伝えないと伝わらないから。
「ご主人様」
「ん? なんだ?」
雅人は台所で食器を洗っている。
人造妖怪のふーちゃんは彼に感謝の気持ちを伝えに来たのだが、それを本人に伝えようとすると緊張して言い出せなくなってしまった。
「あっ、いえ、なんでもありません」
「……? そうか」
夏樹(雅人の実の妹)はその一部始終を見ていた。
リビングにやってきたふーちゃんは深いため息を吐く。
その直後、夏樹は彼女の背後に回った。
「ねえ、ふーちゃん。お兄ちゃんに何か伝えたいことがあるんじゃないの?」
「な、何ですか? 私を排除するための弱みを握りたいのですか?」
なんでそんなに疑心暗鬼になってるのかなー。
まあ、初めて会った時、私がふーちゃんに敵意というか殺意を向けてたから警戒されてるのかなー。
「そんなんじゃないよー。悩みがあるのなら、言ってみ。ほらほら、遠慮しないで。ね?」
「あ、あなたに相談するくらいなら死んだ方がマシです!」
そこまで警戒する必要はないんだけどなー。
仕方ない。こういう時は……。
「そんなこと言わないでよー。あっ、ここだと話しづらいのかな? だったら、私の部屋で話そうよ。それならいいでしょ?」
「嫌です。何をされるか分からないので」
うーん、なかなか手強いなー。
よし、なら、奥の手を使おう。
「あっ! 家の外にお兄ちゃんを〇〇しようとしているやつらがいるよ!」
「……! どこですか! とっちめてやります!」
はい、捕まえた。
「あっ! ひ、卑怯も……も、もがが」
「えー? なあにー? よく聞こえなーい」
彼女は自分の黒い長髪でふーちゃんを拘束した。
「さぁ、おとなしく私の部屋まで行きましょうねー」
「んー! んー!!」
彼女の髪はふーちゃんの口を塞いでいるため助けを求めようにも声がうまく出ない。
*
「ようこそ。私の部屋へ。あっ、一応、手足は拘束させてもらうよ。さぁ、話してみて」
「嫌です! 誰があなたのようなゲスに……」
ゲス?
「ゲス……ね。なら、どうしてふーちゃんは私の血を操って失血死させようとしないの? まさか水しか操れないの? そんなこと、ないよね?」
「さ、さぁ、どうでしょうね」
彼女はふーちゃんの瞳をじっと見つめる。
「あっ、そっかー。やりたくてもできないんだねー」
「……! な、なぜ分かった!」
ビンゴ。
「え? 私、今なんか言った?」
「な、何? ま、まさか今のは!」
しまった! このメスは危険だ。
早く消しておくべきだった!
けど、そんなことをしたら、ご主人様が悲しむ。
「あははは。ふーちゃんって意外と単純なんだね。それで? お兄ちゃんに何を伝えようとしてたの?」
「そ、それは……。お昼のお礼、です」
え? 終わり?
「なあんだ。そんなことかー。じゃあ、私と練習しよっか」
「れ、練習? いったい何の……」
彼女はふーちゃんの唇に人差し指を押し当てる。
「それはもちろん、お兄ちゃんに感謝の気持ちを伝える練習、だよ☆」
その直後、彼女はふーちゃんを解放した。




