迷宮
とある企業の地下。
「おーい! みんなー! どこにいるんだー!」
「ご主人様、このあたりにいる妖怪は私たちだけだよ」
僕は半分人間、半分妖怪なんだが……。
まあ、いいか。
とりあえず夏樹たちを探そう。
「そうか。でも、なんか近くに夏樹がいるような気がするんだよなー」
「そうなの?」
人造妖怪の試作品二号こと、ふーちゃんは首を傾げた。
「なんとなくだけどな。兄妹だからかな? まあ、とりあえずもう少し探してみよう」
彼の背中で休んでいた座敷童子の童子(姉)が急に口を開く。
「雅人さん、どうやら私たちは迷宮の中に閉じ込められてしまったようです」
「そうか。さっきから全然進んでいる感覚がなかったのはそのせいか」
夏樹たちも今頃、迷宮に迷いこんでいるのかもしれないな。
彼がそんなことを考えていると、何者かがものすごい勢いで彼らがいる方に向かってきた。
「あっ、噂をすれば……」
「お兄ちゃああああああああああああああん!!」
黒い長髪をシッポのように動かしながら、彼の胸に飛び込んだのは彼の実の妹である夏樹だった。
「あー! お兄ちゃんだ! お兄ちゃんのにおいがするー! このにおい、たまらない! クセになっちゃう!!」
「あー、えーっと、その……夏樹、お前今までどこにいたんだ?」
彼女は彼から離れようとせず、黒い長髪で矢印を作って、今までいた方にそれの先端を向けた。
「なるほど。ということは、この道をまっすぐ行けばみんなに会えるんだな? というか、お前はどうやってここまで来たんだ?」
「お兄ちゃんの体の中には私の髪の毛が入っているから、それを頼りにここまで来たんだよー……って、あなた、誰?」
雅人の服の裾から手を離さずに立っている水色の長髪が特徴的な美幼女は彼女の問いに答えた。
「私は試作品二号こと、ふーちゃんだよ。人造妖怪であり、ご主人様に全てを捧げた存在でもあるよ」
「は? それってつまり、お兄ちゃんの奴隷ってこと?」
夏樹は彼女に敵意と殺意を向けている。
「奴隷……。それは少し違う。奴隷は主人の命令を必ず実行しないといけない。でも、私は自分がそうしたいと思ったから、そうしたんだよ」
「なるほどね。つまり、あなたはお兄ちゃんに寄生してるってことなんだね?」
彼女はそれを否定した。
「寄生……ではないかな」
「は?」
彼女は彼の首筋にキスをする。
「私は、ご主人様の役に立ちたいと思っている。ご主人様が望むのなら、私は全部叶えてあげたい」
「あっ、そう。まあ、お兄ちゃんに危害を加える気がないのなら、私は何もしない。けど、もしお兄ちゃんが嫌がることをしたら、その時は私の後頭部にあるもう一つの口で丸呑みにするから、そのつもりでいてね?」
彼女はコクリと頷く。
「えっと、話は終わったのか?」
「うん! 終わったよ! さぁ、早くみんなと合流しよう! ほら、こっちだよ! こっち!!」
彼らは夏樹の後を追い始める。
早くみんなと合流できるといいね。




