土蜘蛛
とある企業の地下。
「私はー、お姉ちゃんのー、背中におぶさってー、とあるー、企業のー、地下までやってきたー」
「その歌は誰が考えたのですか?」
童子(姉)が童子(妹)にそう訊ねると、彼女は満面の笑みでこう答えた。
「もちろん私だよー。『座敷童子、前進!!』っていう歌だよー」
「そうですか。まあ、あなたには愛嬌がありますからね、歌手になればたちまち人気者になれますよ」
事実を述べただけ。
ただそれだけのことなのに、彼女は嬉しそうに童子(姉)を抱きしめた。
「お姉ちゃん……好きー! 私のファン一号になってー!」
「……か、考えておきます」
童子(妹)は「やっほー!」と言いながら両腕を振り上げた。
「あまり暴れないでください。落ちてしまいます」
「はーい! あははははー! 私、大勝利ー!」
緊張感のない会話は永遠に続くことはなかった。
なぜなら……。
「侵入者発見! コレヨリ排除スル!!」
「お姉ちゃん、なんか出てきたよー。あれ、なあに?」
完成、していたのですね。
「あれは対妖怪殲滅兵器……土蜘蛛です」
「え? なんちゃら要塞デ○トロイヤーじゃないの?」
あれよりかは大きくないですが、かなり厄介な兵器です。
「違います。みなさん! 離れていてください! これは霊力を吸収します!!」
「童子ちゃん! そんなやばい兵器に勝てるの?」
夏樹(雅人の実の妹)が大声で彼女に伝える。
童子(姉)は静かにコクリと頷いた。
「そっか……。分かった! じゃあ、あとで合流しよう!! みんな! とりあえずここから離れよう!」
座敷童子二人がその場に残る。
黒板を爪で引っ掻いた時のような音がやつから発せられる。
「今からでも遅くありません。あなたも逃げてください」
「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんの文字の力と雅人の鬼の力がなかったら、とっくに消滅してた存在なんだよ? そんな私がここで逃げたら、私には何が残るの?」
こういう時だけ真面目になるのですね。
まあ、切り替えが早い人は嫌いじゃありません。
「私がいなくなっても世界は終わりません。けれど、あなたにとっては世界が終わるのと同じことなのですね。分かりました。では、共にあの鉄クズを倒しましょう」
「鉄クズねー。まあ、すぐにそうなるから、それでいっか」
童子(妹)が童子(姉)の背中から……下りた。




