破魔矢
とある企業の廊下。
「お姉ちゃん、大丈夫? 重くない?」
「申し訳ないと思っているのなら、早く下りてください」
童子(姉)がそう言うと、童子(妹)はそれを否定するかのように彼女を抱きしめた。
「私はねー、お姉ちゃんの体にしがみついてないと死んじゃう病になってるから、それはできませーん」
「どこのハ○ドシェイカーですか……」
敵のアジトの廊下でそんな会話をしていられるほど、警備はガバガバだった。
なぜなら、時が止まっているからだ。
「お姉ちゃん、前方に蜘蛛の巣みたいな結界があるよー」
「知っています。夏樹さん、少し先にある赤いスイッチまで髪は届きますか?」
夏樹(雅人の実の妹)はビシッとサムズアップする。
「届く! 届く! 余裕で届くよー! ここからお兄ちゃんがいるところまで伸ばすことだってできるんだからー!」
「知ってます」
夏樹の黒い長髪は蜘蛛の巣のような結界を蛇のようにすり抜けた。
少し先にある赤いスイッチを押すと、結界は消えた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「どういたしましてー」
少し先に進むと、大きな穴が現れた。
向こう側に行くにはジャンプするか、橋を作るしかない。
「葵さん、出番ですよ」
「え? 私ですか?」
雪女の『雪女 葵』はキョトンとしている。
「天狗の鞍馬さんがいるのに、なぜ自分が呼ばれたのか……。そう思っていますね?」
「は、はい」
童子(姉)は人差し指で上を指差す。
「天井にあるのは破魔矢です。これは時が止まっていようと、空間が歪んでいようと飛行している物体を狙撃します。あとはもう分かりますね?」
「私が氷の橋を作ればいいんですね?」
童子(妹)が「そういうことー」と嬉しそうに言う。
彼女は一瞬で手すり付きの氷製橋を作った。
「上出来です。先を急ぎましょう」
「急ぎましょう!」
座敷童子二人が先導しているおかげでトラップに引っかかることなく進めている。
ここまでは順調……ですね。




