幸せー
とある企業の正門前。
「よおし! それじゃあ、乗り込もうかー!」
「夏樹さん、私がいいと言うまでそこから一歩も動かないでください」
どうして私が童子(姉)の言うことを聞かないといけないのー?
「嫌だって言ったら?」
「おそらく……いえ、確実に灰になります」
はい?
「それって、ハイテンションになるっていう意味?」
「いえ、違います。吸血鬼が太陽の光を浴びて灰になる方の灰です」
あー、そっちね。まあ、知ってたけど。
「ふむふむ。なるほど、なるほど。じゃあ、童子ちゃん、頼んだよー」
「わざとらしいですね……」
夏樹(雅人の実の妹)は彼女の方に耳を傾ける。
「んー? なんか言ったー?」
「いえ、別に何も……」
彼女はそう言うと、文字の力で結界を解除した。
その直後、童子(妹)が彼女の背中に体を預けた。
「お姉ちゃーん、私もう歩けないよー。おんぶしてー」
「私たちはここまで瞬間移動しました。私とほぼ同じステータスのあなたがぐったりしているのはおかしいです」
そうだけどさー。
「そっかー。じゃあ、私が消滅してもいいんだねー?」
「……ええ、別に構いま……」
ん? この娘はたしか私の素直な部分を元に生み出された存在。
この娘が消滅してしまうと、私の中からそういう感情が消えてしまうのでは?
「わ、分かりました。あなたの言うとおりにします」
「わーい! ありがとう! お姉ちゃん! 愛してるー!!」
小悪魔め。
彼女は嫌そうな表情を浮かべながら、童子(妹)を背中に乗せた。
「あー、お姉ちゃんのにおいがするー。幸せー」
「あなたは犬ですか? まったく、困った妹ですね」
そんな感じで童子(姉)たちはとある企業に乗り込んでいった。




