二匹
店長さんは天狗の『鞍馬 天』の膝の上に座った。
ファミレスの禁煙席に座敷童子二人と二口女と雪女と天狗と後神と猫又が集う。
「さて、まず何から話そうか」
「その前に紹介したい人が……いえ、猫がいます」
童子(姉)は夏樹の黒い長髪の中に隠れている家出中の白猫をそこから引っ張り出すと足が着かないように宙ぶらりんにした。
「おや、久しぶりだね。今までどこに行っていたんだい?」
「え、えっと、それは……」
この反応……。
二匹は面識があるようですね。
童子(姉)は家出中の白猫を膝の上に乗せた。
「この白猫はあなたの娘さんですか?」
「元は捨て猫だから血は繋がってないよ。でも、家族であることに変わりはないよ。どうして出ていったのかは分からないけど」
白猫は気まずそうに店長さんから目を逸らした。
「そ、それは……急に力を受け継いでほしいだなんて言われたら、誰でも悩むよ」
「お前はいつもそうだな。自分で対処できなくなったら、すぐに逃げ出す。なぜ家族を頼らないんだ?」
それはおそらく……。
「だって、うちヤクザじゃん」
「だから、どうした? うちがパン屋だろうと殺し屋だろうと、お前はうちの娘であることに変わりはない。そうだろう?」
なるほど。そういうことでしたか。
「店長さん、娘さんは逃げたのではなく、求めていたんだと思います。彼女は雅人さんのことをダーリンと呼んでいます。それはきっと自分にはないものを彼に求めていたからだと思うんです」
「ちょ、ちょっと! 今それ言う!?」
店長さんが急に笑い始める。
童子(姉)以外、目をパチクリさせる。
「なるほど。そういうことだったのか。お前もそういうことを考える年齢になったんだな」
「ま、まあね。あっ、一応言っておくけど、ダーリンと別れろだなんて言われても絶対言うこと聞かないからね!」
店長さんはうんうんと頷く。
「分かってるよ、それくらい。いやあ、言うようになったなー。素直に嬉しいよ、うんうん」
「も、もうー、みんなが見てるんだから、そういうのやめてよね。まったくもう」
しばらく二匹は世間話をしていた。




