悪趣味
寝室に入り、例の天狗の時間停止を解除する。
「起きなさい。『鞍馬 天』」
「……う……うーん……誰ですか? こんな時間に」
童子(姉)は彼の腹にコークスクリューを放った。
腹を抉るように放たれたその拳が彼の腹に直撃した瞬間、彼はショックで跳ね起きた。
「い、いきなり何をするんですか!? 暴行罪で訴えますよ?」
「この世界の時は今止まっています。つまり、誰に言っても相手にしてもらえないということです」
まあ、寝起きのあなたにそんなことを言っても何がどうなっているのか状況を理解できないでしょうね。
「は、はぁ……。えっと、それで僕に何か用があるのですか?」
「用があるから、ここに来たのです。まあ、とりあえず最後まで話を聞いてください」
二人がその場に座ると、童子(妹)が童子(姉)の膝を枕にした。
童子(姉)は嫌そうな表情を浮かべたが、童子(妹)が目をキラキラと輝かせていたため、彼女は何もしなかった。
「……というわけなんです」
「なるほど。やっぱりそういう連中っているんですね」
どこの世界にもいるのですよ。
欲望を満たすためなら手段を選ばない連中が。
「いない方がおかしいです。それで、どうします? 作戦に参加しますか? 鎌鼬騒動のトリガーさん」
「い、いったい何のことですかー? そんな騒動ありましたっけ? ……って、誤魔化し切れるわけないですよね。その件については深く反省しています。けれど、こんな僕でも力になれることがあるのなら、僕は全力で協力しますよ」
罪滅ぼしのつもりですか。
まあ、いいでしょう。
「分かりました。これで二人。いえ……三人ですね。もうそろそろ出てきていいですよ」
「え? 僕たちの他に誰かいるんですか?」
ええ、いますとも。
「いつから気づいてたの?」
「雅人さんがいる手術室に向かっている時からです」
天の背後に黒い影のようなものが出現する。
「『後 神奈』さん。あなたは誰かの後ろにいないと存在できない存在。そうですね?」
「まあ、そうだね」
あなたはずっとそばにいた。
そう、ずっとそばに。
「では、なぜいつも雅人さんの背後に身を潜めていたのですか?」
「好きな人のそばにずっといたいからだよ」
それは分かっています。
私が知りたいのは。
「あなたは雅人さんのそばにいながら、どうして彼を助けようとしなかったのですか?」
「それは私が傍観者であり観察者でもあるからだよ」
悪趣味……ですね。




