一触即発
鞍馬山にやってきた童子たちは例の天狗がいるお寺に向かった。
「ねえねえ、童子ちゃん」
「なんですか?」
例の天狗がいる寝室に向かっていると、夏樹(雅人の実の妹)が童子(姉)にこう訊ねた。
「今さらだけど、これって不法侵入なんじゃない?」
「時が止まっている世界では犯罪は犯罪として成立しません。誰が被害を受けて誰が害を与えたのか認識できないからです」
まあ、この中の誰かがそれを利用しようとした時は私が全力で止めますが。
「へえー、そうなんだー。じゃあ、お兄ちゃんと結婚してもいいんだね?」
「なぜそうなるんですか……」
まあ、できなくはないですが。
雅人さんと結婚……結婚……。
や、やはり一度くらいはウェディングドレスというものを着てみたいですね。
まあ、私のような幼児体型では一生似合いませんが。
「あっ、今お兄ちゃんと結婚できたらいいなーって考えてたでしょ?」
「そ、そんなことはありません」
あなたはエスパーですか?
「そうかなー? 否定してるのが怪しいなー」
「しつこい人は嫌いです」
夏樹は童子(姉)の頭を撫で始める。
「あー、ごめんごめん。もうからかったりしないから許してよー」
「あなたは私の未来の義妹になるかもしれない存在なので、今回は許してあげます」
その直後、童子(妹)が二人の間に割って入った。
「お姉ちゃんの妹は私だけだよー! 誰にも妹ポジは譲らないよー!」
「実妹? の嫉妬は怖いねー。大丈夫だよ、私にその気はないからー。あっ、あと、お兄ちゃんは誰にも渡すつもりないから、欲しくなった時は私と戦ってね?」
童子(姉)の真剣な眼差しが夏樹に向けられる。
「考えておきます」
「りょーかい」
な、何なんですか? これは。
こういう状況が一触即発というのでしょうか……。
雪女の『雪女 葵』は怯えながら三人についていった。




