鬼姫様
十干が人造妖怪……だと?
「あんたたちがなんで生まれたのかは分からない。けど、あたしがこの国を滅ぼそうとした時、対抗できる存在として生み出されたのは分かる」
「……ええ、そうですよ。私たち十干はあなたの細胞から生まれた存在です。あなたがまた暴走したら、今度こそ世界は終わってしまいますからね」
えっと……とりあえず二人を……特に鬼姫をおとなしくさせないといけないな。
「おい、鬼姫。とりあえず乙さんの首から手を離せ」
「嫌よ。あんたがなんと言おうと、あたしはこの女を殺す。確実にね」
お前にその気がないなら話は変わってくるんだが。
「十干はストッパーだろ? お前が暴走した時のための」
「違う。こいつらはあたしを倒して、あたし以上の存在になろうとしてる。そんなのあたしは許さない。あたしより強いあたしなんて、あたしじゃない」
もしかして、お前は自分に負けるのが怖いのか?
「鬼姫、お前が何もしなければ十干は手を出さないと思うぞ」
「そんなはずあるわけ……」
お前を殺す気が少しでもあったら、僕は今ここにいない。
「じゃあ、どうして僕をさっさと殺していないんだ? お前を殺すにはお前の魂を僕から切り離さないといけないのに」
「それは……」
お互い、疑心暗鬼になっていたんだろうな。
「鬼姫、少し落ち着けよ。あと、そろそろ乙さんの首から手を離せ。窒息死するぞ」
「あ、あたしに命令するな!」
じゃあ、お願いしよう。
「なら、これでどうだ? 鬼姫様、お願いですから、その娘の首から手を離してください。このままでは窒息死してしまいます」
「あ、あたしはそんな高貴な存在じゃないけど、そこまで言うなら離してあげなくもない……かな」
あれ? 意外とチョロいな。
鬼姫は彼女の首から手を離した。
乙さんは少し咳き込んだ。
「た、助かりました。ありがとうございます、雅人さん」
「いや、僕は何もしてないよ」
こういう時だけ謙虚になるのズルい。
うるさいな、ここで変にかっこつけたら印象悪くなるんだよ。
「えっと、あたしが暴走しない限り、あんたたちはあたしを監視するだけの存在……でいいの?」
「はい、そうです。その……すみません、不器用で」
不器用というか、タイミングが合ってなかったというかなんというか。
「それはもういいよ。で? 僕は作戦が完了するまでここにいればいいのか?」
「はい、そうです。あっ、ちなみに私はあなたの護衛です」
なるほどな。童子(姉)らしい人選だ。
さてと、それじゃあ、作戦が終わるまで気長に待つとするか。




