私の髪
よし、あとはどうやって僕の鬼の力を狙っている連中のところに行くかだな。
「乙さん、連中は今どこにいるんですか?」
「それは分かりません。ですが、連中はたしかにこの世に存在しています。なので、あとはそれを視認できればいけます」
それってつまり、監視カメラとか霊力探知に引っかからないやつらを見つけるってことだよな?
そんなの千里眼持ちがいないと無理じゃないか。
ん? 千里眼持ち?
あっ、いたわ。
「えっと、それって百々目鬼の目の力でどうにかなるんじゃないか?」
「……まあ、そうですね」
やっぱりか。
ということは、羅々の力を借りないといけないな。
「だよなー。えっと、あとは移動手段と潜入する時の護衛が必要だな」
「えっと、私たちにできることはありますか?」
あなたたち十干は僕と一緒に行動するより、単独で乗り込んでもらった方がやりやすいでしょうから……。
「僕を狙っている連中の拠点は複数あると思うので、みなさんは各個撃破してください」
「分かりました」
さて、あとは僕と一緒に行くやつらを……って、あいつらしかいないよな。
「あっ、そうそう、乙さんにはやってもらいたいことがあるので僕と一緒に来てください」
「はい、分かりました」
よしよし、ここまでは順調だな。
夏樹、待ってろよ。
とっとと終わらせて家に帰るから。
彼がそんなことを考えていると、手術室に誰かがやってきた。
十干と彼以外の時は止まっているはずなのに……。
「お兄ちゃん、迎えに来たよー」
『なっ!?』
一同は揃って目を丸くした。
夏樹、お前……どうしてここに?
「あれ? お姉さんたちだあれ? もしかしてお兄ちゃんの彼女? ねえ、お兄ちゃん。この人たちだあれ? 説明してよー」
「え、えっと、説明する前に一つ教えてくれ。お前、どうして動けるんだ?」
僕の居場所が分かったのは僕の体内に夏樹の髪の毛があるからだろう。
しかし、それだけでは時が止まった空間で動ける理由にはならない。
「え? あー、それはねー。私の髪が守ってくれたからだよー」
「ま、守った? まさか、乙さんの能力が発動する前に夏樹の髪がお前をミノムシ状態にしたってことか?」
夏樹の髪にそんな力があったのか。
「まあ、そんな感じかな。いきなりだったからビックリしたけど、童子ちゃん姉妹も私と同じようなことしてたよー」
さすが童子姉妹。危機察知能力高いな。
「なるほどな。で? お前はどうやってここまで来たんだ? 童子の力を借りたのか?」
「うん、そうだよ。まあ、私の後頭部にあるもう一つの口がお兄ちゃんが病院にいるって言ってくれなかったら、もう少し時間がかかってたかもね」
夏樹。
お前、僕なんかのために自分や他の人の力をフル活用してくれたのか。
「そうか。えっと、来てくれたのは嬉しいんだけど、僕はまだ家に帰れないんだよ。僕の鬼の力を狙っている連中を見つけて警告しに行かないといけないから」
「え? そうなの? そっかー。なら、私も参加するよ。お兄ちゃんは誰にも渡さないし、誰にも殺させない。お兄ちゃんはずっと、ずーっと私のものなんだから……」
雅人以外のみんなは、この娘だけは絶対に怒らせてはいけないな……と思った。




