寝巻き用
さてと、それじゃあ他の十干を呼んでもらおうかな。
「えっと、そろそろ他の十干を呼んでくれないか?」
「あっ、はい、分かりました」
ん? 待てよ。
まさか十干全員が女性なんてことないよな?
「あー、やっぱりちょっとタンマ!!」
「え? あー、はい、分かりました」
天蓋という笠を被った女がこちらを向く。
そういえば、その手に持っている縦笛はどこに収納してるんだ?
いや、今はそんなことどうでもいい。
「え、えーっとだな。もしかして十干は全員……女だったりするのか?」
「え? あー、まあ、そうですね。性格や強さ、口調などはバラバラですが、全員この国を守りたいと思っています」
そうか。全員女なのか。
うーん、さすがにいきなり殺そうとするやつはいないと思うけど、全員ピュアなわけないからな……。
「そ、そうか。悪かったな、邪魔して」
「別に邪魔だなんて思ってないですよ。だから気にしないでください。では、今度こそ呼びますよ」
彼女は僕に背を向けると、縦笛を吹いた。
地球の裏側まで響くように思い切り息を吹きこんでいる。
それは僕を気絶させた時に聞いた音色ではなく、とても心地よい音色だった。
「あっ、これは来てますね。一人、二人……いや、全員……」
「乙ちゃん! 大丈夫!? 変なことされてない?」
音もなく手術室にやってきたのは頭に甲を被った女生徒だった。
なぜ夜中にうちの高校の制服を着ているのだろうか。
寝巻きかな?
いや、そんなことあるわけ。
「甲ちゃん、落ち着いて。というか、相変わらず制服で寝ているのですか?」
「まあね。あっ、ちなみにこれは寝巻き用だよ」
寝巻き用?
おかしいな……。制服っていつも着てないといけないものじゃなかったはずだが。
「寝巻き用、ですか」
「うん、そうだよ」
乙ちゃんがため息を吐くと同時にわらわらと人が集まってきた。
もちろん、音や気配なんてものを感じさせる間もなくだ。
はぁ……うまく説得できるかなー。
雅人は手術台の上でそんなことを考えていた。




