ふざけないでください
考えろ。
僕がなぜここにいるのか。
全ての発端が何なのか。
そして、それをどう対処するのかを。
「……鬼の力なんてものがあるから……いや、違う。鬼姫は自分の居場所を守ろうとして暴れた。だから、鬼姫のせいじゃない。なら、なんだ? 何がいけないんだ?」
「あなたのその力は貧弱な人の体では制御できないほど大きなものです。しかし、あなたはそれを自分の体の一部として扱うことができています」
天蓋という笠を被った女が僕にそんなことを言った。
けど、この力がある限り、僕は狙われ続ける。
そして、それは僕の近くにいる人たちにも……。
ダメだ! 諦めるな! 逃げちゃダメだ!
「僕は大切な人を守るために、この力を使う。悪事になんて使う気はこれっぽっちもない。それを証明できれば、この問題は解決する」
「では、それをどうやって証明するのですか?」
証明……。
信頼なき者に出番なし。
なら、その信頼をどうやって手に入れる?
信頼は長い時間をかけて築き上げるものだ。
じゃあ、どうやってそれを築けばいいんだ?
「雅人さん、あなたは一人でなんとかしようとしていませんか?」
「え?」
一人……。
そうだ、僕一人でできることなんて限られている。
僕の力を利用しようとしている連中はわんさかいる。僕の鬼の力が一騎当千なら、向こうは一万の兵を用意すれば勝てる。
戦力差がありすぎたら戦いにもならない。
僕一人では……どうにもならない。
「……僕は誰にも迷惑をかけたくない」
「……ふざけないでください」
彼女は近くにあったメスを手に取ると、僕の首にそれを近づけた。
手術室にメスがあるのは当然だが、手足を枷で拘束されている者にそれを向けるのは脅し以外の何物でもない。
「人は他人に迷惑をかけずに生きることができません。この世に生きている限り、それは避けようがありません。ですが、あなたは一人で全てを成し遂げようとしています。あなたは自分から不幸になろうとしています。そんなこと、神が許しても私は許しません! もっと他人を頼ってください。あなたがこうして生きていられるのはいったい誰のおかげですか!」




