サムズアップ
雅人の前で童子(姉)はこんなことを言った。
「ま、雅人さん。あの、その……ハグをしたいのですが」
「え? ハグ? 今ここでか?」
これでいいんですよね?
童子(姉)が童子(妹)に視線を送ると、彼女はサムズアップした。
「は、はい。えっと、別に深い意味はないのですが、その……今はそんな気分というか、なんというか」
「そうか。お前にも考えるより先に行動したくなる時があるんだな」
それは少し違うような……。
「ま、まあ、そうですね。では、さっさと私を抱きしめてください」
「まったく、素直じゃないなー」
彼はそう言いながら、童子(姉)をギュッと抱きしめた。
幼児体型でいつもジト目で上から目線で毒舌なロリ。
そんな彼女にだって、誰かに甘えたい時はある。
誰かの体温を……温もりを感じたいと思う時がある。
「雅人さん、あの……」
「何も言わなくていいよ。僕とこうしている時は言葉で伝えようとしなくていいし、する必要もない。お前はただ、僕に体を預けていればいいんだ」
雅人さんはずるい人ですね。
そんなこと言われたら、もっと甘えたくなってしまいます。
「はい、そうします」
「そう、それでいい。それでいいんだよ。お前はそれでいい」
ああ、お姉ちゃんが雅人に抱きしめられて、耳元で口説かれてるよー。
私、この場にいていいのかな?
まあ、私はお姉ちゃんの分離体だし、元はお姉ちゃんの体の一部だったわけだから、いてもいいよね?
「……雅人さん」
「なんだ?」
ん? なになに?
いったい何が始まるの?
「私を……ベッドまで運んでください」
「……分かった」
キャー! いったいこれから何が始まるのー?
私、ここで見てていいのー!?
「雅人さん、布団の中に入りましょう。これからすることはその中でないと恥ずかしいので」
「うん、いいよ。お前がそれを望むのなら」
あー! 激写したいー!
どうしてここにカメラがないのー!!
あっ、そうか! 私の目でしっかり撮影すればいいんだ!
よおし! 激写するぞー!
童子(妹)は息を荒げながら、二人に近寄る。
「雅人さん」
「童子」
クッソー! 布団の中に入られたら見たくても見られないじゃないですかー!
悔しい! でも、それがいい!
誰か私に透視の力をちょうだい!!
童子(妹)は二人が布団から出てくるまで、その場で身悶えていた。




