命短し恋せよ乙女
童子(姉)はしばらくすると、ベッドから出た。
「お姉ちゃん、もう体は大丈夫なの?」
「はい、問題ありません」
童子(姉)は童子(妹)の方を見ることなく、雅人の部屋から出ていこうとした。
「お姉ちゃん、ちょっと待って」
「何ですか?」
童子(妹)が姉の手首を掴む。
いったい何に気づいたのだろう。
「お姉ちゃんは雅人のこと好きなんだよね?」
「私の分離体であるあなたにそれを教える義務はありません」
そうかな?
「お姉ちゃんは何かを恐れているから雅人に自分を曝け出そうとしないんでしょ?」
「仮にそうだとして、あなたに何ができるのですか? 私の恋のキューピッドにでもなってくれるのですか?」
恋のキューピッド……それだ!
「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんの恋を応援するよ!」
「はい? あなたはいきなり何を言って……」
童子(姉)が最後まで言い終わる前に雅人が部屋にやってきた。
「童子ー、調子はどうだー? って、二人とも何してるんだ? ケンカか?」
「ち、ちちち、違います。少し柔軟体操をしていただけです」
お姉ちゃん、それはちょっと無理があるよー。
「そうか。なら、もう大丈夫なんだな?」
「は、はい。おかげさまで」
うーん、雅人は気づいてないみたいだねー。
この二人の距離を縮めるのは結構難しいなー。
「お姉ちゃん、ちょっと」
「な、何ですか?」
童子(妹)は部屋の隅に姉を連れていく。
雅人に背を向けた状態で妹は姉に小声でこう言う。
「お姉ちゃんはもっとアタックするべきだよ。じゃないと、お姉ちゃんの本気は雅人に届かないよ」
「私の……本気?」
お姉ちゃんは年長者っぼく振る舞う傾向があるからね。
もう少し恋する乙女オーラを出していかないとダメだね。
「お姉ちゃんは雅人のことが好き。それは間違いないよね?」
「え? ま、まあ、嫌いではないですね」
どうして素直になれないのかなー。
でも、それはお姉ちゃんの良さでもあるからなー。
うーん、難しいねー。
「じゃあさ、少しずつでいいからお話しする機会とかスキンシップをする機会を増やそうよ。そうすれば、きっと雅人も気づいてくれるよ」
「そ、そうでしょうか?」
それはやってみないと分からないなー。
「お姉ちゃん、命短し恋せよ乙女、だよ!!」
「ゴ○ドラの唄ですね。分かりました、やってみます」
本当に分かったのかなー。
ちょっと心配だなー。
童子(妹)はそんなことを考えながら、姉と共に雅人がいるところまで歩み寄った。




