お昼寝しよー
雅人が夏樹(雅人の実の妹)に告げた言葉……それは。
「僕はまだ未熟だ。お前の手助けならできる。けど、今の僕にできるのはそこまでだ。だから、僕が熟すまで待っててくれないか?」
「……期待していいんだよね?」
期待……。
僕はお前が思っているほど、すごくはない。
けど、未来がどうなるかは誰にも分からない。
なら……。
「あんまり期待されると困るけど、期待するなとは言わないよ」
「お兄ちゃんはズルいなー。でも、私は好きだよ。お兄ちゃんのそういうところ」
彼女はニッコリ笑うと、彼の背中に手を回した。
「気長に待たせてもらうよ。その時が来るまで」
「ああ」
彼も彼女の背中に手を回す。
二人しかいないリビングではほんのりと優しい香りが漂っていた。
*
それからしばらくして……。
「ちょっと童子セカンドの様子を見てくる」
「セカンド? なんか今日はいつもの童子ちゃんじゃないって思ってたけど、やっぱりあの子はいつもの童子ちゃんじゃないの?」
まあ、そうだな。
「いつもの童子でないことはたしかだ。けど、あいつも一応、童子だ。性格とか口調はオリジナルと違うけど」
「ふーん、そうなんだ」
あいつは今、昼寝中のはずだよな。
起こさないように静かに行こう。
「じゃあ、いってくる」
「うん、いってらっしゃい」
僕は夏樹に一言言ってから、その場を後にした。
「童子セカンドさーん、寝てますかー?」
小声でそう言いながら僕の部屋に入ると、幼児体型の座敷童子がスウスウと寝息を立てていた。
「寝てる時はやっぱり子どもだよな……」
「……雅人ー」
ん? なんだ?
夢の中に僕が出てきたのかな?
僕がベッドの脇に腰掛けると、童子セカンドは僕の手首をギュッと掴んだ。
「ん? なんだ? 僕はここにいるぞ」
「雅人ー、好きー、大好きー、愛してるー」
寝言、だよな?
「はいはい」
「雅人ー、一緒にお昼寝しよー」
昼寝か……。
まあ、まだ時間に余裕はあるから少しくらいなら大丈夫かな。
「おう、いいぞ」
「やったー」
彼女はそう言うと、僕を布団の中に招待した。
「雅人ー、雅人ー」
「まったく、お前は甘えん坊さんだな。抱きしめてほしいのか?」
僕は童子セカンドの背中に手を回した。
彼女はニッコリ笑いながら僕の背中に手を回した。
「あー、幸せー」
「そうか、そうか」
その時までは平和だった。
まさか、このあと、あんなことになるなんて……。




