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実技!?

 雅人まさとがリビングに帰ってくると夏樹なつきは再び保健体育について分からない箇所を彼にたずねた。


「お兄ちゃんって、まだ童貞だよね?」


「なっ! そ、それは! ま、まあ、い、一応、そうだな。記憶が正しければ」


 夏樹なつきはニッコリ笑う。


「お兄ちゃんはまだ童貞だよ。お兄ちゃんが童貞卒業したら、私が気づかないわけないもん」


「ん? それはいったいどういう意味だ?」


 彼女は彼の耳元でこうささやく。


「私、お兄ちゃんの体の中に髪の毛を一本忍ばせてるんだよ。それはお兄ちゃんが童貞を卒業した瞬間、ミサンガみたいにプツンって切れるようにしてあるんだよ。だから……軽い気持ちで童貞卒業しようとしないでね?」


「わ、分かった。肝にめいじておくよ」


 今のは本気マジだった。

 夏樹なつきって独占欲強いよな。


「よろしい。あー、えーっと、ついでに一ついいかな?」


「な、なんだ?」


 なんだろう、嫌な予感しかしない。


「お兄ちゃんって、ほうけ……」


「あー! あー! 聞こえない! 聞こえない!」


 あっ、誤魔化ごまかした。


夏樹なつき、もういいだろ? 保健体育以外のことを勉強しろよ」


「えー、でもまだ実技がー」


 じ、実技!?


「お前はいったい何を考えているんだ! 僕はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!」


「私、お兄ちゃんになら何をされてもいいって思ってるよ。だから……ね? 実技、しよ♡」


 アウト! これは完全にアウトだ!!


「ダメだ! そんなことしたら取り返しのつかないことになる!」


「私はそれを望んでいるんだけどなー」


 お前はいつからそうなったんだ?


「と、とにかく! この話はもう終わり! 解散!」


「逃がさないよ」


 夏樹なつきは瞬時に僕の体を黒い長髪で拘束こうそくした。

 鬼の力を使えば脱出することはできる。

 しかし、妹に鬼の力を使いたくない。

 なぜなら、彼女は彼にとってこの世で一番大切な存在だからだ。


「な、夏樹なつき! お願いだから離してくれ! 僕はお前と一線を越えたくないんだ!」


「お兄ちゃんは照れ屋さんだなー。私のことが好きすぎるから、そんなこと言うんでしょ?」


 そ、そう、なのか?


「私はね、お兄ちゃんのことを誰よりも愛してるし、大切に思ってる。だから、誰にも渡したくないんだよ」


「そ、それは僕も同じだよ。けど、だからって実の兄妹きょうだいでそんなこと……」


 そんなこと……ね。


「お兄ちゃんは私の全部、知りたくないの?」


「え?」


 否定はしないんだね。


「私は知りたいよ。お兄ちゃんのこと」


「そ、そうか。それは嬉しいな」


 はぐらかすつもりなのかな?


「お兄ちゃんはどうなの? 私の全部、知りたくないの?」


「し、知りたくないわけではない……かな」


 お兄ちゃんなら、そう言うと思ったよ。


「なら、しようよ。私、いっぱい愛してあげるよ」


「ど、どこでそんな言葉覚えたんだ?」


 お兄ちゃん、私はね、お兄ちゃん以外、何もいらないんだよ。


「そんなことは今どうでもいいでしょ? ねえ、しようよ。お兄ちゃん」


夏樹なつき……」


 見つめ合う二人。

 部屋には二人の他に誰もいない。

 ここで二人が何をしようと二人が黙っていれば誰にも気づかれることはない。

 まあ、例外がなくもないが。

 彼はそれを理解した上で彼女にこう告げた。

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