豆腐小僧
夕飯を食べ終えた後、僕はバイト先に向かい始めた。
そういえば、うちにいる家出中の白猫って、どこの家の猫なんだろうな。
雅人はそんなことを考えながら、バイト先に向かっていた。
すると……。
「豆腐はいらんかねー。おいしい豆腐だよー」
お皿に豆腐を載せて運んでいる少年がこちらに向かってきた。
こんな夜中に豆腐を売っても誰も来ないだろ……。
いや、待てよ。たしか、そんな妖怪がいたような。
「あっ、そこのお兄さん! 豆腐はいらんかね?」
「え? それって、僕のことかな?」
彼はニッコリ笑って豆腐を僕に差し出す。
「はい、そうです。豆腐は体にいいのでいくつ食べても大丈夫ですよー。なので、お一つどうぞ」
「いえ、あの、僕はこれからバイトに行かないといけないから、また今度にしてくれないかな」
彼は少ししょんぼりした様子で豆腐を自分の方に近づけた。
「そうですか……。それは残念です。あーあ、お兄さんが買わないと次に僕と出会った人に食べると全身にカビが生える豆腐を渡さないといけなくなるなー」
「おい、ちょっと待て」
こいつは『豆腐小僧』だな。
弱そうに見えて、たまにそういうことをする妖怪だから侮れない。
「はい、何でしょう」
「僕がその豆腐を買うよ。あと、それは食べても大丈夫な豆腐なのか?」
彼はニッコリ笑って、僕に豆腐を差し出す。
「はい、大丈夫ですよ。味噌汁に入れても良し。そのままでも良し。あー、ハンバーグにしてもいいですねー」
「飯テロやめろ。あー、えっと、それはいくらだ?」
彼は片手をパーにして、僕にそれを見せた。
「えっと、五万円か?」
「お兄さん、僕のことなんだと思ってるんですか? 五百円ですよ、五百円」
五百円か……。
店で買う方が安いような……。
まあ、いいか。
「分かった。えーっと……これでいいか?」
「はい、たしかに。あっ、家まで運びましょうか?」
え? そんなことできるのか?
「お前、そんなことできるのか?」
「まあ、あまり知られてないですけど、僕たちは豆腐を買った人限定でその人の個人情報を知ることができるんですよ」
へえ、そうなのか。初耳だな。
というか、それ悪用されないか?
「あっ、一応、悪用はできないようにしてあるのでそこは安心してください」
「へえ、そうなのか。えっと、それはあれか? 悪用したらペナルティが与えられるとか、そういうのがあるのか?」
彼はニッコリ笑って、意味深なことを言う。
「さぁ? それはどうでしょうねー。企業秘密ですー」
「そ、そうか。なら、うちまで運んでくれ」
「はい、分かりました。バイト、頑張ってくださいねー」
雅人は「ああ」と言うと、バイト先に向かって走り始めた。
豆腐小僧は豆腐を落とさないように彼の自宅に向かって、歩き始めた。




