牛丼
夕飯は牛丼だった。
『吉○家』か『す○家』に行けばいい?
まあ、約一名の胃袋がブラックホールでなければ、行けたかもしれないな。
「童子ちゃん! おかわり!!」
「はいはい。それにしても、夏樹さんは本当によく食べますね」
座敷童子の童子はそんなことを言いながら丼にごはんを装い始めた。
うちの妹、夏樹は二口女という妖怪だ。
顔にある口ではあまり食べることができないが、後頭部にあるもう一つの口からなら、いくらでも食べることができる。
どうして、その栄養が胸に行かないのだろう。
不思議だ、実に不思議だ。まあ、別にでかけりゃいいというものではないが。
「ねえねえ、お兄ちゃん。今、どこ見てたのー?」
「え? いや、別に何も見てないぞ」
夏樹はニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
「えー、本当かなー? 私にはお兄ちゃんが私のおっぱいあたりを見ていたように感じたよー。ねえねえ、お兄ちゃん。本当は見てたんでしょ? 発展途上の私のおっぱい」
「み、見てないよ。というか、そんなこと言ってるとお前の分も食べちゃうぞ?」
妹はさらにニヤける。
「キャー! お兄ちゃんが私のこと食べるって言ったー! 童子ちゃん、助けてー!」
「なっ! そ、そんなこと言ってないよ! なあ? 童子」
童子はごはんを装うのを中断すると、深いため息を吐いた。
「私に助けを求めないでください。あと、夏樹さんはもう少しお行儀良くしてください。はしたないですよ」
「ありゃりゃ、怒られちゃった。ごめんね、童子ちゃん。次から気をつけるから許してー」
夏樹は彼女の足元に縋っている。
まったく、幼稚園児並みに元気だな。
うーん、まあ、元気じゃないよりかはマシかな。
彼はそんなことを考えながら、牛丼を食べていた。




